「ヴェル。私ね、最近マッチングアプリ始めたんだ」
「ふーん、じゃあアタシもやろうかしら」
そう答えたヴェルの言葉が、近頃ずっと耳から離れてくれない。思い返せば、あれはかなりの衝撃だった。なんか、「はぁ? アンタそんな低俗なコトしてんの? 暇すぎない?」みたいなこと言われると思ってたから。まさかあのヴェルが、そんなもの使わずとも引く手数多であろう彼女が、マッチングアプリを……。いや、なんで意外とか思ってたんだろう。今考えてみると、ヴェルって元々そういうアプリ使ってそうにも見えるな……。そんな風に、ずっとヴェルのことを考えてしまい、胸の辺りのもやもやが一向に晴れてくれない。
[……君、僕に興味ないですよね?]
あるとき、メッセージを交わしていた相手からそんなことを言われてしまって。
[すみません。最近、友達のことで頭がいっぱいで……もやもやが収まらないんです]
と正直に打ち明けると、
[……それって、本当に友達ですか? 君はその相手のことが好きなのでは?]
なんて言葉が返ってきて。少し前なら、まさか〜!、なんて言ってしまいそうな問いだけれど、今は何故かそれがすとん、と心に落ちる。……ああ、私、ヴェルのこと……。 そう気づくやいなや、
[その通りだったみたいです! そういうことなので、貴方には本当に申し訳ないですが、アプリ辞めることにします! ありがとうございました!!]
と高速で打ち込み、アプリをアインストールする。そして、彼女の元へ駆けて行く。
「ヴェルヴェット!!」
「ちょっと、扉が壊れるじゃない。そんなに慌ててどうしたのよ」
「私ね……ヴェルのことが好きだって気がついたの」
ぱちり。彼女の大きくて綺麗な瞳が丸くなる。
「……マッチングアプリも辞めたよ。だから……出来ればヴェルにも辞めて欲しい。図々しいこと言ってごめんね」
それでも、譲りたくない。そんな気持ちを込めてヴェルを見つめれば、瞳が緩められて。
「……全く。気づくのが遅いのよ、お馬鹿さん。言っとくけど、アタシはアンタの本当の気持ちなんてとっくに気づいてたわよ」
「えっ……!?」
「アタシもアプリ使うって言ったのも、アンタを自覚させるために決まってんでしょ?始めてもないからやめる必要もないわよ」
まさか彼女にそこまで筒抜けだったとは思わず、頬が熱くなる。彼女はそんなこちらの様子を見て、くすりと笑みを浮かべると、胸の辺りに人差し指を押し当てて。
「お生憎様、アタシはずっとニブチンのお姫サマに夢中なの。……誰のことかは、さすがのアンタでも分かるわよね?」
上目遣いで得意げな顔をするヴェルに、鼓動の高まりは留まることを知らない。こくりと緩やかに頷けば、
「さすがアタシの選んだ子♡」
と頬に口付けられて真っ赤になった。