あなたに別の好きな人がいる世界線での彼ら(ヴァレンティノ)








 最近、頗る気分が晴れない。何をしていても、胸のあたりに黒い靄みてえなモンが充満してやがる。原因は多分、いや、絶対にお前のせいに違いない。
 
「はぁ……かっこいい」
 
 ほら、出たよコレだ。砂糖でも吐いているかのような甘ったるい声で、寒気がしちまうくらい気色の悪いことをほざくお前。視線の先は、お前とツーショットで写る男の姿。阿呆みてえに楽しそうに笑うその顔が、余計に腹立たしい。小せえ四角の箱の中では、二人きりの世界ってか? 舐めやがって。
 
 カッと目の前が赤くなる。何もかもを壊したくて、引き裂きたくて、ぐちゃぐちゃにしてやりたくなる衝動。体が疼いて疼いて仕方がない。……だが、俺はそれをどうにか抑えて拳を握る。我ながら、柄じゃねえとは思う。何者にも囚われず、自由に、好きなことを好きなだけする。それが俺だ。だが、今回に限ってはそうする訳にはいかねえ。だってもしここで、お前の前で暴れちまえば、まるで俺がお前のことを。……んなものは、認めねえ。このバレンティノ様に限って、そんなことはあっちゃならねえ。俺がお前の心を支配することはあっても、その逆は有り得ねえんだよ。
 
 ……が、それはそうとしても衝動は完全には抑えられない。お前が去った後は、死ぬほど部屋を荒らしてやった。物音を聞いて部屋に入ってきたヤツには鉛をぶち込でやった。そうして暴れれば暴れるほど、俺にここまでの衝動があることを、その要因がお前にあることを理解させられているような気がして、余計に止まらなくなった。
 
 ……違う。違う、違う、違う!!
 
 そう否定し続けても、破壊し、引き裂き、撃ち、罵倒し、別のヤツを抱いてみたって、俺の渇きは少しも満たされない。いっそお前を殺してやろうかとも何度も思ったが、それだけは何故か出来なかったから厄介だ。
 
 ……なんでこの俺が、お前ごときのせいでこんな目に? 一体いつまでこんな気分が続くんだ? なあ分かるだろ、もう限界なんだよ、俺は。
 
 あーあ。やめだやめだ。次に会ったらお前が泣こうが喚こうが、無理矢理にでも契約を結ばせてやる。あのチンケなクソ野郎に二度と会わせないように。それとも、目の前でブチ殺してやろうか。別にいいよな? 俺は相当我慢したんだ、お前に何もなきゃ割に合わねえ。安心しろよ、俺はあいつの分まで、いや、あいつ以上にお前をたっぷり可愛がってやれる。きっとそうしたら……この胸の靄は、晴れるに違いないよな?





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