君に想い人がいることを打ち明けられたとき。まず最初に、緩やかに口角が下がっていくのを感じた。……そうか。君に、想いを寄せる相手がね。次いで、私は自身の心が存外静やかであることに驚いてしまった。君にそんな相手が出来ようものなら数日は寝込むのでは、だなんて可愛らしいことを考えていた自分が今では懐かしい。
不思議な感覚だ。手、足、纏う空気までも、凍えるように冷えきっていて仕方がないというのに。内側には、この地獄の空のような深紅の炎が燃え盛っている。煮えくり返るような血がどくり、どくりと巡ると同時に、部屋の空気が徐々に下がっていくのを、私は静観していた。
恋慕の情というものは、自身で制御することも第三者によって操作することもできやしない。だから、君の気持ちが容易に変えられるものではないことも理解している。だが、それは私にも言える話だろう? 私とて、君に対して抱くこの思いを失くすことはできない。失くしてやる気もない。つまり────私は君を、他の男に譲る気はさらさらない。
「……なぁ、少し話をしないか?」
はは、さすがは君だな。後退るということは、なにかを察したか。だが、少しばかり遅かった。今逃げるには、君はあまりに私と関わりすぎた。あとは、私に好かれてしまったのが運の尽き、とでも言っておこうか。ああ、それ以前に君は覚えているだろうか? 私が地獄の王である以前に、どの大罪を司っているのかを。
「……ルシファー、さん……?」
傲慢。驕り高ぶり侮る性根が、常に心の奥底に燻り続けている。今に始まった話じゃない。やりたいことを存分にする。欲しいものは手に入れる。私は君が生まれるずっと前から、そうしてきた。……結果、この手から零れ落ちてしまったものはあったが、欲を前にし、それを黙って見過ごしたことは一度たりともない。
瞠目する君の手首を掴む。燃える瞳を君に向ける。ゆっくりと口角を上げる。君を引き寄せる。君に囁く。柔らかな髪を耳に掛けて、するりと滑らせた手で頬を撫でる。丁重に、繊細に、壊れ物を扱うかのように。
……さて。君は今、どんな顔をしているかな? たとえどんな顔をしていようとも可愛いな≠ニ言うことには変わりないが。