彼との主従関係は良好とは言えないけれど、かといって壊滅的というわけでもなくて。大抵上機嫌のこちらに対し、大抵機嫌が悪いのが彼で、そういうところも含めて主がすべて受け入れているからこそ均衡が保たれている。
「不機嫌な顔もいいわね、アル? まるで地獄は俺のモノとでも言いたげな顔と態度をしているくせに、私に全く歯が立たないなんて……本当に惨めで可愛いこと♡」
「ッ……!」
「あら?いつもの笑顔はどうしたの?あなたにとって笑顔は、本心を悟られないための武器になるんじゃなかった?」
「……アナタの前でだけですよ。私にその常識が通じなくなるのは」
「あら嬉しい。口説かれてるのかしら?」
「……fxxk」
ふふ、と笑いながら彼の頬を軽くつまめば、下唇を噛んで悔しそうにこちらを見上げる彼の姿にぞくぞくする。こんなやり取りが、彼との日常。
とある日のこと。帰宅した後ソファーに座り、その日新たに迎えた契約相手の魂をこの身に感じながら、増強していく力にほくそ笑んでいると。
「…また新しい眷属をお作りに?アナタの悪趣味にもほとほと呆れたものですね。闇雲に契約を結び続けて、管理し切れるのですか?」
主の帰還を迎える彼が闇の中から現れる。
「なあにアル?もしかして嫉妬してるの?」
「一体どう解釈したらそのような考えになるんです?」
ため息をつきながらそう返してくる彼だけど、その表情はやはりどこか不満げで。これだから彼は飽きないのよね、と心を躍らせながら、「おいで、アル」膝をぽん、と叩いて彼を招く。
これも彼との日常のひとつで、彼は何度もそれを経験しているから、こちらの言わんとしていることが何かをよく分かっている。
「……」
「あら、聞こえなかったかしら?……来いと言ったのよ、アラスター」
「……チッ」
舌打ちをしながらも、渋々とこちらに寄ってくる彼。屈辱的な表情を浮かべながらも、ソファーに横になり、ゆっくりとこちらの膝の上に頭を乗せる。
「ねぇ、アル。私には貴方だけよ。貴方が私の一番のお気に入り。それが覆ることはないわ、絶対に」
「……まさか私を宥めるつもりで言ってるんですか?もしそうだとしたら、少しも嬉しくありませんが」
「どうして?」
「どうしても何もありませんよ。つまり、アナタはこう言いたいのでしょう? “私のことだけは絶対に解放するつもりはない” と」
「……ふふ、その通りよ。賢い子ね、アル。ご褒美にたくさん撫でてあげる」
「……はぁ」
大きくため息をつく彼の頭を、労わるように撫で上げる。するり、するり。整った柔らかな毛並みに指を通せば、ぴょこぴょこと動いていた耳がぺしょんと下を向くから、思わず微笑んでしまう。
「……こんな愛し方しか知らなくてごめんなさい」
彼の耳が塞がっているのをいいことに小さく口にした本音は、きっと彼には届いてないはず。
「……馬鹿なひとですね」
だから彼の呟きにも、聞こえないフリをした。