もしもあなたが彼らの契約主だったら(ヴァレンティノ)







 彼とは一見、そこまで上下関係があるようには見えない。

「なあ、あの服買ってくれよ」
「あら。服はこの前買い与えたばかりじゃなかったかしら?」
「アンタの服のセンスもまあ悪くはねぇけど、俺は自分で選んだ服が着たいんだ。この服着た最高にセクシーでイケてる俺を侍らせたいだろ? な?」
「……ふふ。相変わらず口説き方が上手いわね。いいわ、何着でも選びなさい」
 
 それは、 彼のこういう部分も含めて気に入っているから。 大半の悪魔はこちらを恐れるばかりで、ただ従順で、“Yes”しか言わない大して面白くない存在。けれど、彼だけは違った。こうして契約を結んでも尚、有象無象のような態度にはなり切らなかった。
 
「本当に、あなたを相手にしていると気が楽だわ。そう、 そうなのよ。後輩でも部下でも、少し生意気なくらいが可愛いものよね」
 
 
 しかし、いくら主従関係が良好に見えると言えども、結局上の立場なのは主の方。それはお互いだけが、よく分かっている。
 
 「……生意気は可愛いと言ったけれど、"少し"よ。あまり調子に乗りすぎるといい事がないわ。お互いにね。そうでしょう、ボウヤ?」
 
 ヴァレンティノが断りなく朝帰りをした。本人は仕事をしていたと言っているが、そんなことは関係ない。ただ一報をくれさえすれば良かったのにそれを怠った。それが全てだった。
 
「……悪かったよ。つい忘れちまってたんだ。あと、その呼び方はやめろ」
「ふふ。あなたが世間でどんなに妖艶だとか色気があるだとか言われていても、私にとってはいつまでも可愛いボウヤのままよ」
 
 彼が嫌いそうな言葉選びをしてみると案の定気に障ったようで笑みが零れる。けれど、彼は想像とは裏腹に、悔しそうな顔で黙り込むことはなくて。目線を合わせるように腰を曲げると、フッと口角を上げた。
 
「……へぇ。じゃあアンタはボウヤとSEXする趣味があるってことか?」
「!」
「いや、さすがのアンタもそこまで悪食じゃねえか……なら、ボウヤの俺とはもう、そういうことはできねえな?」
 
 にやりと歯を見せて笑う彼だが、きっとこれは彼にとっても一か八かの賭けだったはず。これでこちらの機嫌がさらに悪くなる可能性もあるというのに、あえて挑発してみる選択をしたのだ。 しかも、 自身が勝つという圧倒的な自信をもって。
 
 ……ああこれだから、彼は面白い。代替がきかない、私だけの唯一無二。
 
「……いいわね。今のはなかなかの返しよ。果敢な姿勢に免じて、今回は折れてあげる」
「お褒めに預かり光栄だ。……それで?アンタの機嫌を損ねちまった俺は何をすればいい?俺の女王サマは一体何がご所望なんだ?」
 
 手の甲に口付け、妖しく笑う彼。既に夜の顔をしているのは、こちらがなにを答えるかが分かっているからなのだろう。
 
「そうね。ひとまず"ボウヤ"は撤回するわ、 honey。その上で……とびきり刺激的なの、くれるかしら?」
 
 甘えるように彼の胸板に体を預けつつ、あくまで命じるような声色で語りかければ、歯を光らせて笑う彼。
 
「……女王サマの仰せのままに」
 
 彼の言葉とともに、重なる唇、どさり、沈み込む体躯。そうして今日も彼と、寝台での戯れに興じるのだった。





backtop