名前と絶対に離れたくないから契約したいアラスター。名前に向ける感情が恋か否かなどはもはやどうでもよくて。ただ名前を永遠に傍に置いておきたい≠サの感情が、アラスターにとってはすべて。どうすればその願いが叶うのか?最もシンプルかつ確実な方法こそが、相手の魂を縛る契約≠セった。だから、アラスターは隙あらば名前に契約を持ちかけていた。
「アラスター、一緒にショッピングに行かない?」
「もちろんいいですよ、my dear。ですが、付き合う代わりに契約していただいても?」
「……それは、」
「HAHA!冗談ですよ!……尤も、冗談でなければこの上なく嬉しいですが」
「……」
一方名前の方はというと、アラスターに片思いをしているもののアラスターが欲しているのは魂だけ≠ニ考えているため、アラスターから契約の話を持ちかけられる度に胸が苦しくなる。諦めなければいつかアラスターの考えも変わるのではないか。魂ではなく自身を求めてくれるのではないか。そう信じてアラスターをデートに誘ったり頻繁に話しかけたりと頑張ってアプローチをするけれど一緒にいればいるほどアラスターの契約したい気持ちは加速するばかりで、むしろ逆効果になっているからどうしようもない。魂だけでもアラスターに求められるのは嬉しい。けれど、アラスターが契約している大勢の内の1人になってしまえば、大した魅力も面白みもない自分はアラスターに見向きもされなくなってしまうかもしれない。本当にどうしたらいいんだろう……色々と悩みに悩み、とうとう限界を迎えそうになったそのとき。
「名前。貴女の心が決まるまでは待つつもりでしたが……そろそろ私も我慢の限界のようです。いい加減私と契約なさい」
追い打ちかけるようにアラスターから言い渡されたその言葉。アラスターもアラスターで限界を迎えつつあったようで。しかし、そのタイミングが非常に悪かった。
「……嫌」
「……はい?」
「……私、アラスターとだけは絶対に契約したくない」
───刹那。耳を劈くようなラジオのノイズ音が響く。闇の中から現れた触手が名前の手足を縛り付け、アラスターに拘束されてしまう。チクタクと揺れる彼の瞳は、間違いなく怒りの感情を孕んでいて。
「……一体どういうつもりだ?私とだけは絶対に?他ならいいとも取れる言い方だな?そんなことを今更私が許すと思うか?」
「……っ」
「いつもどんな気持ちで私の隣にいた?内心では私を嫌っていたのか?私を愚弄していたのか?」
「それは違う……!」
「ならなぜ俺を拒む!!」
「っ……好きだから!!」
「……アラスターのこと、好きだから……魂だけを求められるのが辛くて……」
そう言いぽろぽろと涙を零す名前に、アラスターは瞠目する。まさか名前がそのようなことを言い出すとは想像もしていなくて。しばらく時間が止まったかのような感覚になっていたアラスターだけれど、名前の啜り泣く声にハッと我に返る。するりと触手を闇へとしまい名前を解放すると、アラスターは名前を抱き寄せる。突然の出来事に、名前の涙はせき止められて。骨張っている細身の体だけれどしっかりとした男性のそれに、心臓がとくとくと早鐘を打った。
「……すみません、my dear。私としたことが少々言葉足らずだったようです。貴女がどう思うかをよく考えていなかった」
「……」
「……私は、魂が欲しいから貴女と契約したいのではありません。まぁ、本音を言ってしまえばそれも間違いではないのですが。Darling、私はですね……貴女と永遠に共に在りたいから、貴女と契約したいのですよ」
今度は名前が驚く番だった。同様に、まさかアラスターの口からそんな言葉が出てくるだなんて思いもしてなくて。
「魂さえ縛ってしまえば、貴女は私から離れていかないでしょう?……この言葉では、貴女の涙を拭うには不十分ですか」
「っ……ううん、十分だよ……!むしろ十分すぎて、余計に泣いちゃいそうかも」
顔を上げ、にこりと微笑めば、同じく笑みを返してくれる彼。
「私の方もごめんね、アラスター。あんな言い方したら傷つくよね……」
「過ぎたことです。誤解も解けましたし、もう気にしていませんよ」
「……ねぇ、アラスター。私もアラスターとずっと居たいから、私が離れていく心配はいらないよ。でも、それでもアラスターが不安なら……私、アラスターと契約する」
「……それは非常に嬉しい申し出ですが、今回は遠慮することにしましょう。ですが、万が一貴女が私から離れようとするようなことがあれば……そのときは貴女が泣こうが喚こうが関係なく、無理矢理にでも貴女と契約を結んで差し上げます」
……つまり、何があっても彼とずっと一緒にいられるということ。彼からの愛の言葉は特に望んでいなかったけれど、愛の言葉以上に価値のあるその宣言に胸がいっぱいになる。
「……絶対に離してあげませんよ。覚悟しておいてくださいね、my dear」
どこか危うくも聞こえるその響きが、ひどく愛おしく感じられて仕方がない。その言葉に答えるようにぎゅっと彼を抱き締めれば、優しく抱き締め返された温もりに、幸せが募っていった。