きっと、サイバトロン星のどこかの、とある場所。可愛らしい内装と、可愛らしい人形がたくさん飾られた、まるで夢の中のようなワンルーム。この部屋は、 彼に与えられたもので、彼との部屋で、彼の鳥籠だ。
──がちゃり。主の来訪を知らせる音に、びりりとセンサーが震える。
「やあ、ただいま!やっと帰って来れたよ!今朝キミと離れた瞬間からもうずっと会いたくて会いたくて仕方なかったんだけど、離れた分だけこうして顔を見れたときの嬉しかったらないね!最高の気分だよ!キミは今日一日大丈夫だったかな?少しでも俺のこと考えてくれてたらなぁ、なんて……あー! 待って今のなし!忘れて!この話はもう終わりにしよう!えーと、そうだな……あ!今日オプティマスがさ、」
いつものように、饒舌な彼の話に耳を傾ける。しかしどうしてか、今日は彼の言葉が右から左へ流れてしまう。まだ自身の中に“抵抗”という概念が残っていたことに驚かされた。
「……どうしたの?どこか不具合でもある?」
心配そうに覗き込む彼。力なく首を振れば、彼はこちらの手を握ってきて。
「じゃあ何か言いづらいことがあったりする?それとも欲しいものがあるけど言いにくいとか?あ、もしかして“友だち”が足りなかった?俺がいないとき寂しいもんね!もう少し数を増やそうか?どちらにせよ遠慮しないで何でも言ってね!俺、キミのためならどんなものでも用意してくるからさ!」
にこりと優しく笑いかける彼に、諦観の目を向ける。無駄だと思う、けれど、心のどこかで、もしかしたら、と。彼の心境に変化が訪れている可能性だってあるかもしれない。一縷の望みをかけて、口を開く。
「… ……なら、私をここから出し、」
ぴとり。彼の人差し指が触れて、強制的に閉じられる唇。上目遣いの蒼眸が、こちらを貫く。
「……ねぇ、ダメだよ。今、なにを言おうとしたの?」
「……あ、」
ブレインが真っ白になる。やっぱり、ダメだった。失言だった。もう分かっていたはずなのに。こんなこと言っても無駄だって。
「もう、仕方ないなぁ……俺の言ったことを忘れちゃったうっかりさんには、またじっくり教えてあげなくちゃね。キミはずーっと俺と二人きり、ここで暮らしていくんだって」
「まって、やだ、やだ、ごめんなさ、……!」
「やだなぁ、こんなに震えちゃって……どうして怖がるの?俺、キミには痛いことも苦しいことも絶対しないのに」
どさり。反転する視界。こちらを組み敷く彼の姿。体は動かない。否、動かせない。
「……俺を見て、俺を感じて、俺の事だけを考えて?そうすればきっと、余計なことは考えなくなるはずだから」
……ああ、どうしてこうなってしまったんだろう。敵であるはずなのに密かに思いを寄せていた彼。思いが通じていたのは喜ばしいことであるはずなのに、まるでひとが変わってしまった彼が怖くて仕方がない。けれど、すべて悪いのはこちらの方。裏切ったから、騙していたから、彼を変えてしまった。これはきっと、その代償であり、報いなのだ。
「……キミのことが大好きだよ。 ずっとずっと一緒にいようね」
徐々に近づいていく距離。愛しくて哀しい彼の言葉を胸に留めながら、すべてに懺悔し、彼を受け入れるのだった。