「そうか……それは残念だね」
彼にしては引くのが早いなと少し不審に思う。すると長いまつ毛を伏せ、どこか寂しそうな笑みを見せる彼。
「……人間の生は長いようで短い。それが好いた女性と過ごす時間なら、なおのことそう感じるものだ。私はそんな刹那のひとときを、貴女と惜しみなく楽しみたいと思ったのだけれど……どうやら、私の思いが一人歩きしてしまっていたようだ。私とて、貴女の嫌がることをするのは本意ではないからね。ここは潔く諦めることにしよう」
……謎の哀愁を漂わせ、儚げに微笑む彼。明らかに芝居がかったそれにどう反応していいか迷うけれど。何故だろう、彼の願いをたくさん聞いてあげなきゃいけないような、遠い昔にはそれが叶わなかったような……そんな感覚が拭えない。「……じゃあ、いいよ」と声を掛けると、すぐさまこちらの手を取り、にこりと笑う彼。
「ふふ、嬉しいな。君ならそう言ってくれると信じていたよ」
語尾に ♪ でもつきそうな彼は、 やはりこちらの同情心を誘っていた策士だったのだろう。
「さあ、始めようか。 この菓子が尽きるまでたっぷりと、 ね」
思わずため息をつきたくなるも、その楽しげな様子を見ていたらなんだか全てを許せてしまうし、こちらも結局は満更でもなかったりするから口を噤む。そしてその日は彼の遊戯に言葉通り、たっぷりと付き合うことになった。