スパイな貴女の正体が彼にバレてしまった(メガトロン)







「お前、俺に降れ」

裏切りが発覚して捕らえられて。開口一番、彼に投げかけられたのはそんな言葉。怒るでもなく詰るでもなく尋ねるでもなく、彼が放ったのはシンプルな命令。さすがに困惑が隠せず、言葉を詰まらせていると、彼はフッと笑みを浮かべる。

「俺の考えに共感していただろう? 今日まで我が軍のために働き、意見してきたお前の言動は、とても演技とは思えない。ブレインスキャンなんかしなくても、簡単に分かる事実だ」
「そんな、根拠もなく……」
「根拠と言えるかは分からないが……お前が流した情報、どれも大した内容じゃなかったらしいな? 既に解析を済ませたサウンドウェーブから報告があった。ここのところ、 通信が滞っていたとも」
「!」

まさか、もうそこまで筒抜けになっているとは思わなかった。彼の言う通り、彼のカリスマ性に惹かれてしまったのは事実で。彼という存在を知れば知るほど、揺れる心に嘘がつけなり、やがて嘘をついていることに心が痛くなった。そして多分、惹かれたのは、彼のカリスマ性だけではなくて。

「……」

言葉が出てこないこちらに対し、彼はゆっくりと歩み寄り、あろうことか拘束を解く。再び捕らえるのは容易いだろうけれど、襲われても逃げられてもおかしくない状況なのに。しかしこれはきっと、私が彼に害をなさないという、圧倒的自信があるが故なのだろう。本当になんてひとなんだと驚くと同時に、 やはりどうしようもなく惹かれてやまない。

「俺の方がお前のことを考えてやれる。少なくとも、お前をこんな風に敵地に送り込む捨て駒のような扱いはさせない」

憎々しげに、強く拳を握る彼。鮮烈な紅に、スパークが切なく疼き出す。

「分かってるとは思うが、俺はもうお前をみすみす主の元へ返す気はない。俺の配下になるのは決定事項……だがそれが、“お前の意思” によるものだったらいいと思っている」

もう、喉元まで出かかっている言葉。なんて、他者を惹き付けるのが上手いひとなのだろう。敬服と思慕の念が、吹き荒れる。

「そして、ここからは独り言だが」

そう言うと彼は、おもむろにこちらの手を取ると、 甲に軽く口付けてきて。

「……お前が欲しい。これは軍の長として言ってるんじゃない。ただの、俺の個人的な願いだ」

……ああ、 まったくこのひとは。どれだけこちらを夢中にさせれば気が済むのだろう。とどめの一撃と言わんばかりに刺さったそれは、間諜を寝返らせるには十分すぎるもので。次にこちらが口にした言葉に、柔らかに細められた紅を、もっと見つめていたいと切に感じた。





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