look at me







ふわり。

窓から入り込むあたたかな風が頬を撫でる。
ノートから視線ずらし、ふと顔を窓の方へ向けると、あいつが目に入った。
俺の左斜め前の、窓際に座るあいつ。
柔らかな髪が風に靡くと、僅かに首を傾げ、おもむろにその一束を耳にかける。

「……」

そんなひとつの仕草でさえ、俺の心臓は容易く音を立ててしまう。
この気持ちを知る前は、誰かに対してここまで心を揺さぶられるなんて思いもしなかった。
あいつの一挙一動が気になって、気づいたら目線がいつもその姿を追っていた。

「(…………こっち、向かねぇかな)」

なんて。淡い願望を抱いてしまったりもする。
まぁ、前の席のやつがわざわざ後ろを向くことなんて、そうそうないのだが。

その点、俺はあいつよりも後ろの席で助かった。こうして見つめていても、窓の外を見る先にたまたまあいつがいたって言い訳ができるからだ。…できるはずだ。多分、おそらく。

カチ、カチ、カチ。
頬杖をついて、意味もなくシャーペンを2、3度鳴らす。目線はもちろんそのままで。

…そういえば、あいつ、好きなやつとかいるのか?
少し前に、いないという情報を上鳴から聞いたが、今はどうなのだろう。
いたとしたら、確実に3日以上は寝込む自信がある。
いなかったとしても、いずれは誰かと結ばれ、恋人同士になるのだろう。ああ、そうか、あいつに恋人が。
…………………やべぇ、想像以上に辛ぇな。


ゴーーーーーーーーン


まるで俺の気持ちと共鳴するかのように、授業終了のベルが鳴る。
ちらりと黒板を確認し、ノートに写し漏れがないことを確認すると、そのまま視線を戻す。
そして、くるりとした可愛らしいその瞳と視線が合った。
…………え、視線が、

がだだだ

「っ、」

焦りと歓喜と羞恥とで、頬杖していた腕が崩れ、音を立てた。様々な感情が入り交じり、心臓がバクバクと鳴り響いた。
あいつはきょとんとした表情を浮かべると、次には花が咲くように笑い、鈴を鳴らした。
やっちまった、と自己嫌悪しつつも、その笑顔を前にすれば、何もかもどうでも良くなってくる。

「何か用があるんでしょ?どうしたの?」

…いつも何とか隠してきたつもりだが、今回はさすがにバレちまったようだ。

さて、なんて言い訳しようか。
例の「外を見た先にお前がいた」を使うのか、それとも。

……ふと。
先ほど勝手に想像した、あいつの恋人の姿が頭に浮かんだ。胸にちりりとした痛みが走り、全身が“嫌だ”と叫び出す。すると、用意しておいた台詞はどこかへ飛んでゆき。

「─────────お前に、見惚れてた」

お前が、好きだから。

口走った言葉に頬を染めたあいつを見れば、じわりとあたかかい何かが胸に滲んだ。


(…この後一悶着あったのは、言うまでもない。)





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