元彼から電話がかかってきたときの彼の反応(荼毘)





大抵は夜に訪れるけれど、たまに日中の時間を女の子の部屋で過ごす彼。その時は特に何かをする訳でもなく、こうして今のようにお互い何も話さずにいることが多い。沈黙の時間は慣れたものなので、苦というわけれではないけれど、本当はもう少し彼と会話をして、距離を縮めたくて。何かを尋ねようと口を開きかけると、運悪く携帯の着信音が鳴る。

さらに、携帯の画面に映るのは元彼の番号。本当にとことんついていない。…ここでふと、思ってしまった。 “元彼から電話がかかってきたと知ったら、彼は嫉妬してくれるのか” 求められたら応じて、気まぐれに訪れたときは部屋に入れて。彼が愛を囁くのは期待してないけれど、せめてちゃんと彼に求められていることを確かめたくて。下手したら取り返しのつかないことになりそうだけど…うん、よし、 やってみよう。

「オイ、出るか出ないかハッキリしろ。音うっせェ」
「…相手、元彼だったから」
「……へぇ」

撃沈である。見事全く興味ない。
予想していた反応だけれど、やっぱり少し落ち込んでしまう。そして心の中でため息をつつ電話を取る。

『…出てくれるってことは、 期待していいの?』「…はい?」
『あの時は悪かった。もう1回チャンスくれよ』
「何言ってるの?無理に決まって、」
『なんで?今恋人でもいんの?』
「……、」

本当は何か言い返さなければいけないのに、ここで言葉に詰まってしまう。だって、彼との関係は“恋人”と呼ぶにはあまりにも曖昧で、かと言って今のように空いた時間を一緒に過ごしたりもするから、 身体だけの関係とも言い切れなくて。

『いないんだろ?だったら、』電話越しから聞こえる声にも上手く反応出来ずどうすべきか逡巡していると、 ふと背後に彼の気配を感じる。そして、彼の顔を確認しようと顔を動かした、そのとき。

「ひゃ、!」 耳に息を吹きかけられ、思わずあられもない声が漏れてしまう。もしかして、まさか。悪い予感がしたときにはもう遅かったようで。そのまま太腿、腰、…と際どいラインを彼の指がなぞってくる。

「やめ、っ、」 携帯を持っていない方の手で口を押え、 必死に声を押し殺してはいるものの、元彼には聞こえてしまっているかもしれない。そう思うと恥ずかしくて、涙が滲む。

“お願いだから許して、荼毘”
そんな思いを込めて背後にいる彼に顔を向ければ、彼がぴたりと動きを止める。彼は足に力が入らなくなった自分を片手で支え、もう片方の手で携帯を取り上げる。

「こいつの声で興奮したか?」
『っ、!お前、』
「ハッ、図星かよ?…だが
残念だったな、こいつはもう俺の物なんだよ」

てめぇは一人寂しく自分のモンでも慰めてな。
そう言い残すと彼は通話を切り、そのまま携帯をソファの上に投げてしまう。

「…ひどい」
「なんとでも言えよ」

そうせせら笑う彼は、酷く得意げで。
その日は流れで真昼間からベッドに入る羽目になってしまったのだが、後々考えると、ちゃんと元彼にも牽制してくれたし、“俺の物” だなんて言ってくれたのが嬉しくなる。そして、あんな声を聞かれた元彼にはもう二度と関りたくない、と思ってしまえば、全て彼の計画通りになってたりする。一見、へらへらと好き勝手やっているように見える彼の行動は、しっかりと意味を含んでいることが多い上、それをあくまで自然にやってのけるから、 本当にすごいんだけど本当に困る。




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