久しぶりに時間ができた彼と談笑していたら、電話がかかってくる。相手が誰であろうと出る気はなかったけれど、とりあえず相手を確認してみると、元彼の番号が表示されてるから驚く。最悪な別れ方をしたときのことが頭を過り、光の速さで着信拒否を押す。
「うわー、見ちゃった。嫌な相手だった?」
「はい、ものすごく嫌な相手でした」
「はは、お前にそこまで嫌われるなんて、やるねぇその相手。どういう関係?」
「……元彼です」
「…へー、確かにお前変なの引っ掛けそうだもんね」
「それ、自分に返ってきてますよ?」
「おっと、 こりゃまずい」
一瞬微妙な空気が流れた気もするけれど、なんとか笑い話になってほっとする。…なんていうのは、束の間で。
ブーブー、ぶつ、ブーブー、ぶつ
ブーブー、ぶつ、ブーブー、ぶつ
バイブ音が鳴る度に着信拒否しているけれど、それは永遠に鳴り止まない。いわゆる鬼電というやつである。さすがにここまでくると彼との会話も弾まないし、せっかく久方ぶりに会えたのに色々と台無しに。後々面倒臭いことになりそうだけど、そろそろ電源切ろうかな、と思ったときに、彼はついに口を出してきて。
「…あー、俺気にしねぇから出ちまえば?まぁお前が嫌なら止めねぇけど」
「……、」
“気にしない”とは、どういう意味なのか。もし自分だったら彼が元カノと話していたら気になるに決まっている。彼は私が元彼と通話しても“気にしない” のだろうか。もしかしたら言葉の綾かもしれないけれど、元彼との通話を促されたことが、なんだか少し寂しくて。
気づけば、絶対出るまいと思っていた相手からの電話に出てしまっていた。そして出た瞬間その事に後悔した。まず携帯越しから耳に伝わってきたのは、がなり声と罵詈雑言。なんで無視すんだ、ふざけんな、のような。しまいには『せっかく寄り戻してやろうと思ったのに』なんて言う始末。騒音をBGMに、なんで私この人好きだったんだろ、とぼんやり考える。
「なんで上から目線なの?言っとくけどこっちにはその気全然ないから」
『は?…お前まさか、恋人がいるとか言うんじゃないだろうな?』
「…いるよ、 貴方と違っていつも怒鳴ったりしない人」
『っ、あんなに俺の事好きとかほざいてた癖にもう乗り換えかよ、尻軽女。はは、股緩すぎだろ』
カッ、と頬が熱くなる。当てつけのような事を言ったのはこちらだけど、最低な言葉で返してきた元彼に、怒りと羞恥が込み上げる。その物言いに何も言えなくなってしまって、ただ拳を握りしめていたら、携帯を持っている方の手に彼の手が重ねられる。 そしてそれはそのまま彼の耳に当てられて。
「元恋人とはいえ随分な言いようじゃないの、お兄さん?」
彼が、口を開いた。
『…誰だよ、お前』
「あんたと違っていつも怒鳴ったりしないヤツ、かな」
『!』
「…俺さ、基本紳士なんだけど、ヒーロー様とか聖人君主とかじゃねーのよ。だからさ、気に入らねぇ男の1人や2人消すのだって、全く躊躇いないワケ。そんでもって自分の女罵られようもんならまぁ、死ぬより惨い目に合わせてやってもいいかもな。…言いたいこと、わかるか?」
彼は決して怒り散らしたりなどせずに、静かな怒りを言葉に宿していて。
「なるべく俺の手を煩わせないでくれたらいいんけどな」
と零すと、通話を切る。その後あいつ絶対懲りてねェと思うんだよね近いうちにあいつの面拝むことになるかも、とか、やっぱ悪い芽は早めに摘んでおくかなァ、とか呟いてるから全力で止めることになる。彼との時間を邪魔されはしたものの、自分のために怒ってくれたり、彼の“女”認定も貰えたりで、少しいい気分。決して冗談ではない殺しの脅しをした彼に、思わずときめいてしまった自分は、もう彼<ヴィラン>に毒されてしまったのだろう。