「おにーさん、良かったら遊びませんか?」
「…………あ゙?」
夜中にサングラスしてる上、動きがチンピラっぽいから、乗ってくれそうに見えて声をかけた。が、一瞬で後悔した。めちゃくちゃ眉間に皺寄ってるし、地獄から這い出た悪魔みたいな声してるしで、思わず喉がひゅ、と鳴る。
「…やっぱ、何でもないです」
逃げるが勝ち戦法で男から180度体を回転させるけど、「オイ、待て」と腕を掴まれてしまって。
「てめェこの後どうするつもりだ」
「どうするって、その…」
「…まさか次は他の野郎を引っ掛けるなんて言わねェよな?」
「……」
無言を肯定と捉えた彼はマリアナ海溝並に深く刻まれた眉間を更に深くして。産まれたての子鹿状態で彼を見つめていれば、「これが初めてか?」 と問われて。
「え、」
「いつもこんな事してんのかって聞いてんだよ」
「し、してません。初めてデス」
「理由は?」
「えー…と。…彼氏に振られたから、ですかね」
彼の凄みに負けて洗いざらい吐かされ、しまいには 「馬鹿かてめェは」 なんて言われてしまう。どうせ何も知らないくせに、と内心思いながら俯いていると、彼は再び口を開き。
「…そいつとてめェの間に何があったかはクソほど興味ねェが、ヤケになってこんなことしようと思うなんざ馬鹿げてんだろ。 てめェを振った男のために、 これ以上振り回されんな」
かなり粗雑な言葉遣いだけれど、彼の言葉は腑に落ちる。そうか、浮気した上に振ってきた男のために、わざわざ好きでもない男に身体を許そうとしてしまったのか。頭がクリアになると、徐々に正気に戻ってきて。
「…確かに、そうですね。あなたのおかげで正気に戻りました。ありがとうございます」
「ハッ、そーかよ」
そう言って去ろうとする彼の手を、今度はなぜかこちらが掴んでいて。
「あの!正気に戻った上で、その…あなたのこと、もっと知りたいんです、けど」
自然と口がそう動いていたのに驚きつつ、熱くなった顔で彼を見つめれば、きょとんと目を丸くする姿が伺えて。こんな顔もするんだ、という思いとともに彼を知りたいという気持ちが一層深まった気がした。
…それから、紆余曲折を経てやっとの思いで彼と恋人になったりして。彼の友人(上鳴)から「お前らってどういう出会い方したの?」 と訊かれた時に、 「こいつに逆ナンされた」 なんて爆弾発言をされるのはもう少し先の話。