「おにーさん、良かったら遊びませんか?」
「…んー。どうしようかな」
にこり。と笑みを浮かべる彼は間違いなく。
「え、ほ、ほほ…!!」
「はいストップ。それ以上言っちゃうとちょっと困ったことになっちゃうんで、一旦胸にしまっておいてもらえます?」
いやいやいや!と思いつつ、口を押えて悲鳴を押し込める。恐らく知らない人はいないんじゃないかと思われる超有名ヒーロー、ホークス。そんな彼が今、ここに立っていて、話をしている。その事実だけでも卒倒ものなのに、まさか逆ナンしてしまうなんて…なんで気づかなかった!?と焦っても、時すでに遅し。
「すみませんでした…!まさか貴方だったなんて気付かず…!」
「いえいえ、お気になさらず。…それよりも、さっきの話に戻していいですか?」
「あ、あー、あれは、その…少しふざけてただけです…!とりあえずすみませんでした!さようなら!」
勢いでそこまで言い切ると、彼に背を向けて全速力で走り出す。…けれど、途中からなぜか風景が変わらないのに気がついて。おもむろに下を見ると無様に空中で足を動かす自分がいる。恐らく、こんな状態にできる相手はきっと…。
ぽん、と軽く叩かれた肩に冷や汗が出る。ぎこぎこと少しずつ首を後ろに回せば、
「逃がすと思う?」
にっこりと。それはもう、綺麗な笑顔をみせる彼がいたから、思わず顔を引き攣らせたのは言うまでもない。
……そして気が付いたら、きっと一生縁がなかったはずの高層マンションの一室にいて。いかにも高級そうな革のソファに座らされて。この状況は、一体。
「いくつかある寝床のひとつなんで、そんなに気を張らなくてもいいですよ」
どう考えても無理。
「コーヒーでも飲んで落ち着いてください」
味がしません。
「…なんであんなことを?」
…………。
こちらが言い淀んでいると、彼は少し悩むような素振りを見せつつ、おもむろに口を開いて。
「本当はこういうこと言うの柄じゃないんですけど…あなたが、助けを求める顔をしているように見えたんですよ。ヒーローとしては、あの状況で放っておくわけにはいかなくて」
余計なお世話でしたか?と笑う彼の姿を見て、思わず堰を切ったように涙が溢れ出てきて止まらなくなる。彼はその間、何も言わずに背中を撫でてくれた…。
結果として、彼はヒーローとして救ってくれただけでなく、元彼への未練を断ち切る恋人としても救ってくれることになるのはまた別のお話。