轟くんと恋が始まりそうな予感





*短編が没になったもの。中途半端に終わります。




「…しまった」

机に広げた教科書の紙面に、盛大な溜め息を滑らせる。いざ課題をやろうと机に向かったはいいものの、いつも使っているお気に入りのシャープペンシルがなかった。最後に使ったのは確か、教室で日誌を書いたとき。どうやら学校に置いてきてしまったみたいだった。…だめだ、これだけのことなのに何だかもうやる気が出ない。今日のところはもう寝て、明日早めに学校へ行って課題をやろうか。もう一度、はぁ、と大きな溜め息を吐き出す。吹きかけられた息にぱらぱらと揺れる紙が、まるで私を笑っているみたいに感じられた。

早朝。私は誰よりも早く学校へ向かった。1年A組の学級表札を尻目に、教室のドアを開ける。案の定、誰もいないそこ。もの寂しくて、落ち着かなくて、何だか少しそわそわする。いつも賑やかな空間なはずの場所には、コツコツと1人の足音が鳴るだけだった。自席に着くやいなや、私はつい、あっ、と声を上げた。机の上に置かれていたのは私の求めてたもの。こんなにわかりやすい所に置いてあったのに忘れてしまうなんてこと、あるだろうか?もしかしたら机の周辺に落としてしまっていて、それに気づかず私が帰った後、誰かが拾って置いておいてくれたのかもしれない。まぁ何はともあれ、きちんと教室にあったから良かった。私は安堵しつつ、そのシャーペンを手に取る。と、持ち上げたそれの下に何か文字が書いてあることに気がついた。


【 好きだ。】


「……え?」

机の上の左上。私のお気に入りのシャープペンシルに隠れて、その文字は書かれていた。たった一言。本当に、それだけ。筆跡は女子が書くような丸みを帯びた可愛らしいものではなく、いかにも男が書いたような荒っぽさが窺える。けれど殴り書いたような雑さはなく、1文字1文字をしっかりと綴っているように見受けられた。

“好きだ。”何度読み返しても、そうとしか読み取れないそれ。じわじわと全身に熱い血が巡っていき、心臓は早鐘を打ち始める。…待て、落ち着け。これは何かのドッキリかもしれない。そうだ、芦戸ちゃん辺りなら筆跡を男子に似せて告白紛いの言葉を書いてドッキリ仕掛けました、なんてあとから言われても可笑しくない。彼女たちじゃなかったとしても、誰かがただのイタズラで書いたのかもしれない。それに生憎、今の私はこんなことで動揺している暇はない。一刻も早く課題を終わらせなくては。私は努めて冷静を装い席に座ると、そそくさと課題プリントを取り出し、机の上に乗せる。

「……、」

プリントの左上から覗くのは、あの文字。それが視界に入るだけで、どきりと鼓動が跳ねてしまう。冷静になろうと努めても、こればっかりは気になって仕方なくて。私は筆箱を取り出し消しゴムに触れる。だけどほんの少し、触れただけ。その文字が何を示すのかも、誰が書いたのかも知らないまま消してしまうのは、何だか寂しい気がした。私は逸る鼓動を抑えるように、その文字の上に筆箱を置いた。



結論から言うと、どうやらあれはイタズラではないようだった。芦戸ちゃん達は机に文字を書くなんてことしてないようだったし、そもそも彼女たちは私が帰る前にはもう既に教室を出ていたようだ。そしてこの話をして気づいたことがある。それは、あの文字は確実に私が教室を出た後に書かれたもの…つまり私が帰った後、まだ教室に残っていた人達なら何か知っている可能性が高く、そこを絞れば割り出せるのではないか、ということ。まず三奈ちゃんと透ちゃんは私より前に帰ってて、お茶子ちゃんと梅雨ちゃんは私と一緒に帰ったから…百ちゃんと響香ちゃんはどうだろう?次の休み時間になったら聞いてみようかな。そんなことを考えながら、私は少し進んでしまった板書を急いで書き写した。

「ウチ、昨日はヤオモモと帰ってないよ」
「そうなんですの。私、少々副委員長の仕事がありまして…」
「じゃあ少し遅くまで教室に残ってたりした…?」
「いえ、別室で作業しました。荷物は既に準備していましたので、教室には帰るときに通りかかったくらいですわ」
「!じゃあ、そのとき誰がいたかとか覚えてる?」
「教室に誰がいたか、ですか……あ、そういえば…」

何かを思い出したような顔をする百ちゃんにどきりと胸が跳ねる。もしかしたらそこにいた人の誰かが、あの文字を…。私は思わず固唾を飲んだ。誰。誰なの。あれを書いたのは、一体。彼女の口が開いて、声を発するまでがスローモーションのように感じられた。


「確か、轟さんがいましたわ」


ーーーーーーえ?

「へー轟残ってたんだ」
「はい…もうみなさん既にお帰りになっている時間ですのに、なぜか一人で教室にいらっしゃって…声を掛けようかとも思ったのですが、…少し話しかけづらい雰囲気でして」

でも、それが一体どうしたんですの?そう聞き返す百ちゃんの声が遠く聞こえる。轟くん。彼とはあまり話したことがない。あのエンデヴァーの息子で、推薦入学者で、成績優秀で、眉目秀麗で…とにかく非の打ち所がない人。知っているのは大体それだけ。彼の趣味のひとつすら、私は知らない。まさかそんな人が、あの文字を?いや、ありえない。どんな夢物語だ。運動も勉強も個性も平々凡々な女の子に実は密かに思いを寄せているイケメン…そんな展開は少女漫画でしか見ないし、現実はそう甘くはない。

……だけど、もし。もしも本当に、轟くんだったら…?私は思わず轟くんの方へ目を向けようとする。

「君たち!もう授業開始5分前だぞ!早く席に座りたまえ!」

が、それは飯田くんの言葉に押し留められた。私は話をしてくれた2人に感謝を述べると、急いで自席に戻る。筆箱を少しずらせば、そこにはしっかりと【好きだ。】の文字が残っていた。これを書いたのは轟くん…なのかも、しれないんだ。…ああ、今日はずっと鼓動が忙しない。

轟くん。赤と白の髪が特徴的な彼。炎と氷を操れて、顔には火傷跡があったよね。あれ、でもどっちにあったっけ。確か左、かな。瞳の色は両方違うっけ。青っぽい目と…うーん、片方は思い出せない。…私、轟くんのこと全然知らないな。時分には縁がないと思っていたし、特に関わる機会もなかったせいだと思う、多分。決して薄情なわけじゃ…いや、結構薄情かもしれない。

─────その後の授業も、私は暇さえあれば彼のことばかり考えてしまっていた。




(夢主は轟くんはとくに関わりがないものの、爆豪くんとは幼なじみで仲がいい設定。爆豪は夢主に昔から思いを寄せているも、素直になれず幼なじみ止まり。でも、これを機に轟くんを目で追う夢主に気づいて行動に出始めたりする予定でした。このあとは、食堂で轟くんと近くになって意識してたら、一緒にご飯食べてたお茶子ちゃんが「昨日言いそびれた飯田くんに聞いたんやけど、爆豪くんがいたの見たらしいんよ」って言ってきて、【好きだ。】と書いた人の候補が轟くんか爆豪くんかに絞られる。その日のうちに夢主は「友達の話なんだけど、机に好きって書かれてたのってどう思う?」って探ってみたら、「俺なら自分で直接言うわ」って別に動揺もせずに返ってくる。でもやっぱり話したことない轟くんよりも爆豪の方が可能性は高いのかな、と爆豪のことも意識し始める夢主。次の日、轟くんに初めて話しかけられる。「昨日爆豪と帰ったんだな。仲良いのか?」幼なじみなんだよね、と軽く返したら、「今日は俺と一緒に帰らないか?」って言われて次は轟くんと2人で帰ることになって揺れる夢主。それからなんとなく爆豪と轟くんが夢主を取り合う感じになる。結論、机に好きだ。と書いた張本人は轟くん。ずっと片思いをしていて、一度しか話したことがない(夢主は覚えてない)という設定でした。結末は、机に好きだと書いたのは俺だと夢主に告白し、2人で結ばれるパターン1と、机に好きだと書いたのが轟くんだと筆跡で確信した夢主が轟くんに話を聞きに行こうとするも、「…行くな。」と夢主を爆豪が引き留め、「あいつよりも俺はずっと前からお前が好きなンだよ。」と告白をし、幼なじみカップルエンドのパターン2の2つを考えていました。…が、筆が追いつかなかったので供養します。)




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