IF プロヒーロー・トーヤ





*荼毘のヒーローパロディ。没になった短編の冒頭なので、唐突に終わります。




「よぉ、今お帰りか?」

「えっ…トーヤさん…!?」

仕事終わりにそのまま買い物をして、ぼんやりと帰っていた夜道。もうすぐで家に辿り着く、というときに彼はまるで待ち伏せてたかのように物陰から現れた。

「ちょっと…!連絡なしで突然来られるのほんと心臓に悪いので!会いにくるときは伝えて欲しいです!」
「別にいいじゃねェか。俺たちの中だろ?」
「……いや、何も無いはずですが?」

そうだっけか、なんて言ってけたけた笑う彼。それをジト目で見つめていれば、流れるような動きでスーパーの袋を持ってくれる。……仕方ないな、と今日もこの調子。いつもアポなしで現れるし、飄々としていて、からかってばかりだけど、彼がこういう人だと知っているから憎めない。



『エンデヴァーの息子、人気若手ヒーロートーヤがまたもや大活躍しました!やはり血筋と言うべきでしょうか。彼の活躍は目覚しく、TOP10入りも時間の問題だという噂も──』
『永遠にトーヤのフォロワーです!ちょっと冷たいところもあるんですけど、ふと見せる笑顔が堪らなくて〜…』
『一見ヴィランっぽい見た目してるだけど、実はヒーローっつーギャップがいいんだよなー!あと、…』
『おれね、将来はトーヤみたいなクールで強いヒーローになりたい!それでね、…』



プロヒーロー・トーヤ。本名 轟燈矢。今をときめく若手ヒーローの名前だ。最初こそ“プロヒーローエンデヴァーの息子”として脚光を浴びた彼だが、目覚しい活躍と人目を引くルックス、人となりが注目されていき、今ではヒーロービルボードチャートTOP10入り寸前と言ったところまで差し迫っている、才能あるヒーローだ。

……そんな大人気ヒーローと私は、ちょっとしたきっかけから先程のようによく会話する仲になっている。…というか何故か私の居場所を察知しているかのように彼の方からよく会いに来る。今でもこのような有名人と普通に会話ができるのか不思議で仕方ない。人間、生きていれば何があるか分からないものだ。本当に。

「あの!ヒーロー・トーヤですよね…?」
「……ん?」

噂をすればなんとやら。女子高生だろうか?なんとも可愛らしい女の子が駆け寄ってきた。…これは、私がいると色々誤解を生んでまずいんじゃ……なーんて、最初こそ考えはしたが、今はもう思わない。最早このような光景にも慣れてしまったからだ。結論からいえば、ファンにとって私は眼中にないことがほとんどなので、気にする方が無駄なのである。

「あたし、ずっとトーヤのフォロワーで……」
「へぇ、そりゃどーも」
「それで、もう本当にずっと好きで…一回でいいので良かったら、プライベートでもお会いしませんか…?」
「……」

正直、少し驚いた。今までのファンたちはサインやら写真やらを要求する人が多かったが、今回のようにプライベートで関わることを求める人は見たことがなかったからだ。こういうファンにはどのように対応するのか、少し気になり、斜め後ろから彼の顔を見つめる。

「…ガキの癖して一丁前にお誘いか?この国の未来が心配だな」
「あ、あたしは真剣に…!」
「…ま、それでもっつーなら五年後にもう一回来いよ。その時には考えといてやる」

彼がそう言いフッと笑えば、女子高生は顔を真っ赤にして走っていった。

「…ああいうこと簡単に言っちゃっていいんですか?彼女、恋する乙女の目をしてましたよ」
「ハッ、なんだ嫉妬か?」

いや悪ィ悪ィ。こちらを向いてニヤリと口角を上げ彼。“別に嫉妬とかしてませんけど”の意を込めて軽く睨みつけると、さらに愉快そうに笑い出す。…本当に、よく分からない人だ。

「ヒーローってのは人望も大事なもんでね。俺はお父さんとは違って、ファンを全員大切にしたいんだよ」
「…本音は?」
「使えるモンは使っとく」

もう…とジト目で見つめていると、ふと彼の端末が音を鳴らす。きっと、ヒーローとしての仕事が入ったのだろう。

「…最後まで送ってやれなくて悪ィな。明日また、会いに行く」

気をつけて帰れよ。そう言って彼は蒼い炎を纏い、夜闇へと跳んでいった。




(これは短編の「敵連合・ショート」の前のお話のつもりでした。トーヤと別れたこの帰り道に、夢主はショートに誘拐されます。ショートの方では最終的に夢主は彼の手に堕ちる展開にしていますが、こちらのトーヤの方ではショートのところから夢主を救出することに成功して、嫉妬に燃えたトーヤが夢主を抱き潰す…まで考えていましたが没になったので供養します。)





backtop