「浮かない顔してどーしたんです?」
恋人から突然別れを告げられ何も考えたくなくなり、家のベランダで風に当たっていると、突然彼の声がした。声の元を探して辺りを見回せば、いつの間にか隣に彼が立っている。
「貴方とは私が辛いときによく会う気がしますね」と言うと「まさか、たまたまですよ」と言ってへらへらと笑った。でも、「彼に振られました」と打ち明けると、彼は先程とは打って変わって真面目な顔になり、真剣に耳を傾けてれる。彼が浮気してたこと、彼がいかに酷いかということ、それでも彼の好きだったことを泣きながら話せば「うん」「よく我慢しましたね」「そうだったんですか」と、女の子の話に対して優しく相槌を打ち、たまに慰めの言葉をかけながら聞いてくれた。
全てを語り終えると、「その人の事、忘れたいですか」と彼に言われたので、「あんな人早く忘れてしまいたいです」と泣きながら答えると、彼にぎゅっと抱きしめられる。
「なら、俺が全部忘れさせてあげますよ」
突然の言葉に意味を図りかねて、言葉を失う。すると彼がフッと笑って、さらに言葉を連ねる。
「さっきの話、嘘です。本当は貴女が辛いときは率先して貴女に会いに行っていました。今だってそうです。好きな子が辛いときは寄り添って、その子が恋人と別れたときはそれにつけ込んで…俺って結構狡い男なんですよ。知ってました?」
彼が、抱きしめる腕を強める。
「でも…貴女を手に入れる為なら何でもしたかった。俺、欲しいと思ったらどうにも我慢できない性分でして」
そこまで言い終えると、彼は抱き寄せていた体をそっと離した。急に離れた温もりにもの寂しさを覚えていると、今度はこちらに手を差し伸べてくる。そして、射抜くような眼差しでこちらを見つめてきて。
「貴女が…名前さんが、好きです。俺が絶対に幸せにします。だからどうか、俺を選んでくれませんか?」
心臓が忙しなく鳴り響く。こんな気持ちにさせられているのも、全て彼の計算の内なのだろうか?でも、その手を取らない選択肢を知らない…。