ヤンデレな彼に愛される(爆豪)





─名前 side─

「何かあったら遠慮なく言いなね」
「ありがとうございます」

そんな会話を何度か交わして行く内に、自宅に着く。小さな小さな家だけど、一人が住むには十分な家。いつも通りポスト代わりの木箱を確認すると、いつも通り無数の手紙が入っていた。
“お前は犯罪者の娘” “出ていけ”
…赤字で乱雑に書き殴られた文字。こんな内容は、まだいい方で。罪を犯した者の子への世間の風当たりは、 決して弱くない。罵倒され、非難され、虐げられ。最近では表立った嫌がらせは無くなったものの、こうして手紙だけはほぼ毎日のように届いた。私は手に取った手紙をぼう、と眺めた後に、その内容以外の内容の郵便物がないことを確認すると、それらを全て燃やしてしまった。

「…またか」

不意に、背後から彼の声がした。「……。」黙ったまま俯いていると、徐に後ろから抱きしめられる。

「…大丈夫だ。お前には俺がいる。たとえ周りがなんと言おうと、俺だけはお前の味方だ」

彼は孤独な私に優しく寄り添ってくれる。…そう、孤独な私に。本当は知ってるの。もう世間の声はそこまで厳しいものじゃないこと、あなたが手紙を細工をしていること。言わなきゃ、 今度こそ。 でないと、 彼にとっての私はずっと“助けるべき人” でしかないから。あなたが過去に欲したものを、似た境遇の私に与えているんでしょう?でもそれはきっと、私が求める愛じゃない。

「…ねぇロディ。今日ね、近所のおばさんにお裾分け貰ったんだ」
「…」
「仕事先で特別に賄い貰ってね、近所のおじさんには頑張れよって声掛けてもらった。それから、」 「なぁ」

彼は私の言葉を遮る。そのまま抱きしめる腕を強めると、耳元に口を寄せて。

「お前は…お前だけは、俺を置いていかないよな…?」

その囁きに思わず息が詰まってしまう。
…私は今日も言えない。
“たとえ孤独じゃなくなろうとも、私にはあなたが必要”
って。ただ、それだけなのに。



─ロディ side─

彼女が仕事に出ている時間、俺は彼女の家へ向かう。いつも通り木箱の中身を確認すると、いつも通り1通の手紙が入っていた。

「…またか」

今回の差出人は彼女の父方の祖母。返事用のピンク色の便箋はもう切れてしまった。また補充しなくては。俺は中身をざっと読み、返事の内容を頭に思い浮かべた後、その紙きれを跡形もなく燃やしてしまった。代わりに用意してあった無数の手紙を詰め込み、押し込み、箱を閉じる。

初めて彼女に出会ったとき、運命だと思った。同じく犯罪者の父の子として蔑まれ、母も行方知らず。似た境遇で育った、同い年の女の子。だけど俺とは違い、彼女には兄妹がいなかった。本当に本当に、孤独な彼女。…俺が傍にいたい。気づけばそう思うようになった。苦境で誰にも助けられなかった苦しみを知っているのもあるが、それ以上にただ、彼女の傍にいたかった。誰一人として手を差し伸べない中、 俺は彼女の手を握った。苦しいときは、互いに助け合った。泣きたいときは、慰め合った。彼女が辛いとき、いつも俺は彼女のそばにいた。…そうしている内に、分からなくなった。俺の存在意義。孤独な状況に寄り添ったのが俺だけだったから、彼女は俺を求めた?では彼女が孤独じゃなくなったら、俺は、俺は。

「…ねぇロディ。今日ね、近所のおばさんにお裾分け貰ったんだ」

ある日、彼女はそんなことを言ってきた。…やめろ、俺から離れるな。俺は彼女の言葉を遮り、“あの言葉” を言った。決して嘘じゃない。が、 これを言うとお前が押し黙るのを知っていた。彼女をそのまま腕に抱いていると、 ふとピノが目に入った。……はは、なんで泣いてんだよお前。もしかして嬉しいのか?彼女がまだ離れていかないと分かって。俺は愛してやまない存在をその腕で確かめ、口角を上げる。
…そうして俺はついに、自分の本心すら分からなくなってしまった。





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