─名前 side─
この部屋は、彼に与えられた部屋。彼の私に対する、愛の象徴。ここにいる上でのルールなんて特にない。たった一つのルールもない。…彼の言うことには従う、というのが前提だけれど。
「…ねぇ弔くん。私、 外の空気が吸いたい。なんだかそろそろ、空の色を忘れてしまいそうで」
「…外の汚れた空気なんて吸わなくていい。空の色なんて覚えてる必要はない。…お前には、俺がいればそれでいいだろ?」
…私って女は、相当素直で単純だ。彼の愛はどこか歪で決して美しいとは言えないけれど、彼は私の欲する言葉をたくさんくれて、いつも容易に私を喜ばせてくれる。愛する人からの一言一言が、私の心を揺さぶるの。
「……うん」
頬を染めながら小さく頷けば、今日も私は彼の言いなり。彼は、私が彼を好きだと信じて疑わない。自分たちは互いに愛し合っていると確信している。それはまるで、初恋同士で両思いになった子供のよう。
「大好きだよ、弔くん」
そんな純粋な彼だから、どんな行動も言動も愛しか感じなくて、嬉しくて、幸せで。
「…俺も」
ふわり優しく微笑む彼は、3本の指で柔く頬を撫でる。そんな彼が愛おしくて口付けようとするけれど、首の鎖がギリギリ届かない。突っぱった体に少し不満げな顔をすると、彼は可笑しそうに笑った。その指が次には私の髪の毛を撫でれば、口付けを落としてきて…。彼が与えたこの部屋は、優しく私を包み込む。大好きな人だけを見つめながら、永遠に、二人で。
─死柄木 side─
この部屋は、俺が与えた部屋。お前と俺だけの、愛の巣。この部屋にルールなんてない。俺たちを否定するものなんて、何一つない。お前は俺に欲しい言葉をくれて、優しく全てを肯定してくれる。…ジャラ。お前が寝返りをうつと無機質な音が鳴り響く。足に、手に、首に着けられた枷。これは、お前が一生俺から離れないという証。
「…ねぇ弔くん。私、 外の空気が吸いたい。なんだかそろそろ、空の色を忘れてしまいそうで」
お前はたまに、こうやって冗談を言う。俺からの愛の言葉が欲しいがために。
「…外の汚れた空気なんて吸わなくていい。空の色なんて覚えてる必要はない。…お前には、俺がいればそれでいいだろ?」
そう囁けば、お前は驚くほど容易に頬を染める。お前はこうやって言葉を求めるけれど、俺はその反応を密かに求めている。
「大好きだよ、弔くん」
…だけどそれ以上をくれるお前で。無尽蔵に湧き出す幸福感とお前への愛が全身を満たしていく。
「…俺も」
柔らかな頬を撫でれば、優しくはにかむお前。どく、と鼓動が鳴る。自分の中にこんなにも大きな感情があるだなんて思いもしなかった。不意に彼女は唇を寄せてきたが、鎖の長さが足りず、こちらの唇には届かない。グッと引き留められ目を丸くした後、拗ねた顔をする姿に、胸が擽られる。俺は少し尖らせた桃色のそれに自らの唇を重ね合わせた。愛を囁き、囁かれ。絵に書いたような、互いを思い合う男女。俺の物語はどれも歪だったけれど、 お前との物語はいつだって美しいものだけだった。