「可愛いね」って言ってみた(天喰)






「いただきます」 という声とともに手を合わせる。今日の昼ごはんはホットケーキ。ナイフを使って器用にそれをひと口サイズに切ると、彼はそれを頬張った。

「…美味しい」

そう言って彼はこちらの方に向けて眩しいくらいの笑みを浮かべた。まるで、この喜びを共有したいという風に。

「…はぁ、環くんって本当に可愛いなぁ」

「……え、俺が?」

思わず零れた本音に、 彼は目をぱちくりとさせる。

「うん。環くんは優しくて、笑顔が素敵で、すごく可愛い」

ふふ、と笑いながらにこにこと微笑みかけると、彼は顎に手を添え悩むようなポーズをした。

「…じゃあ君にはなんて言ったらいいのかな」

「え…?」

彼の言葉の意味を図りかねて、首を傾げる。すると彼はテーブル越しに手を伸ばし、頭を柔く撫でてきて。

「俺が可愛いんじゃ、君はその遥か上を行くからさ。可愛い以上の言葉は、なんて言ったらいいんだろうって」

そんな殺し文句、どこで覚えてくるのやら。普段自信なさげな彼なのに、こういうときは素でそんなセリフを言ってくるから心臓に悪い。

「…環くんはやっぱりかっこいいよ」

熱い頬を隠すように少し俯き、ぼそりと呟く。それを機に触れていた彼の手が離れていったので、
ちらりと彼の方を覗けば、照れくさそうに笑う彼がいて。

「…良かった。なら俺はこれからも安心して君に可愛いって言えるね」

慈愛に満ちた表情とは裏腹に、彼の放つ言葉は強烈なもの。体の熱は今にも沸騰しそうなくらいにまで達しているから、顔は茹でダコのように真っ赤なはず。きっと彼の目からは、さも滑稽に映っていることだろう。誤魔化すようにホットケーキを口に入れれば、彼が小さく笑って “可愛い” と呟いた気がした。
その日食べたホットケーキは、あまり味を感じなかった。



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