「可愛いね」って言ってみた(ホークス)






時計の針がまもなく8時を過ぎる。そろそろ彼が帰ってくる時間だな、と思いながら机の上に並べられた料理を眺めた。我ながらいい出来のそれに頬を緩め、鼻歌を歌いながら玄関に向かう。まだかな、とそわそわしながら玄関のドアを眺めていれば、そこから待ち望んだ彼の姿が現れた。

「おかえりなさい!」

とびきりの笑顔で彼を迎えると、彼は眩しそうにこちらを見つめ、「ただいま」 と返してくれる。今日はご馳走ですよ〜なんて上機嫌に語りながらリビングへ向かおうとすると、お腹に彼の腕が回されて。なんだろう、と思っていれば背中に何かを擦り付けられる感触が。これは恐らく、彼が頭をぐりぐりと擦っているのだろう。

「はぁー…癒される…」

そんなことを言いながら尚もそれを続ける彼が何だか幼く思え、母性本能を擽られるような心地がする。
「ふふ、啓悟さん可愛い」 思うがままにそれを口にすれば、ぴたりと彼の動きが止まった。

「…ふーん。可愛いんだ?」

「?はい」

特に何も考えずにそう答えると、突然正面を向かされ、彼と向かい合わせになる。そのまま素早くこちらの両手首を手に捕り頭上で纏めると、壁に押し付けられた。何かを発しようとするけれど、もう片方の手で太腿を這わせる指がそれを許してくれない。至近距離にいる彼を徐に見上げれば、捕食者の目をした猛禽の瞳が炯々と揺れた。胸元から上へと辿る口付けが耳元にまで及ぶと、彼は口を開く。

「ねぇ……俺って、本当に可愛い?」

普段より幾分か低く放たれる声に、ぞくりと背筋が粟立つ。逸る鼓動を感じながら 「…全然可愛くないです」 と呟けば、褒め言葉じゃないはずのそれに、 彼は酷く満足そうな顔をした。
…張り切って作った料理は、 温め直す羽目になった。




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