「可愛いね」って言ってみた(ロディ)






「へへ、どーよ?」

デートの日の帰り道。パルクールが見たい、という要望に彼は応じ、披露してくれた。際どい動きをするから内心どきどきしていたけれど、余裕そうな表情で走り、駆け、跳び、滑る彼の姿はとても素敵だと思った。『ロディ、かっこよかったよ!』そんな言葉をかけようと思ったけれど、得意げな顔をする彼の横に見えるのは、ふふんと胸を張るピノの姿。 それを見ていたら自然と口は
「…ロディ、 可愛いね」 なんて動いていた。

「…は、はぁ!?そこはかっこいいっつーとこだろ普通!」

くわっと目を開いて1人と1匹で抗議する姿に、くすくすと笑いを零す。人前ではあまり表情に出さない彼だから、こうやって自分の感情に従ってくれるのは結構嬉しかったりして。そのまま頬を緩め続けていれば、彼はムッと拗ねたような顔をする。

「…男に可愛いとか言うなよ」

「えー、だって可愛いんだもん」

そこまで言うと彼は頭に手を置き、 溜め息をした。

「そういうのはさ…どっちかって言うと俺のセリフだろ」

不意に呟かれたそれに思わず彼を見ると、灰の瞳と視線が重なる。囚われたようにその灰を見続けていれば、いつの間にか彼の腕の中にいて。何かを発しようとする前には既に、唇に柔い感触が広がっていた。それは今までの触れるだけのもの違い、少しだけ長い口付け。惜しむかのようにゆっくりと唇が離れれば、そこには僅かに頬を染めた彼が満足げな顔をしていて。

「…ほーら。こっちの方が断然かわいい」

どこか艶めかしく響く重低音が心まで蕩けさせる。何も発することが出来ないこらちの姿に気を良くすると、彼はもう一度口付けを落とした。




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