恋人と別れてしまった。何度も浮気もするような酷い人だったのに、やっぱりいざ別れると辛くて。じっとしていると思わず泣いてしまいそうになってしまうのがなんだか悔しい。そんな気持ちを紛らわすように、意味もなく深夜に外を出て、真っ暗な道をぶらぶらと歩く。
「こんな夜道一人で危ないぜ、お嬢さん 」
どこからともなく現れる彼。いつものように仮面をしていないから、にこりと笑うその表情まで確認できる。ひらひら手を振りながらこちらに向かってくる姿を見ていると、じわりと涙が溢れそうになってしまって。それを見兼ねた彼は、瞬時に状況を理解する。
「とりあえず場所移動しよっか。お前ん家でいい?」
コクリと頷くと、自分のコートを女の子に掛け、そのまま肩を持って家までエスコートしてくれる。
家まで着くと、名前をベッドに座らせ、自分は跪く形で名前の前にしゃがむ。そして、何かを待つようにこちらを見つめてくる。なんでも聞くよ、彼の顔がそんな風に言っているような気がしたので、ぽつぽつと事の経緯を話す。「だいたい予想はしてたけど…なるほどな…」彼が独り言のように呟くと、名前の横に座る。
「おじさんの胸でよかったらいくらでも貸すよ」
そう言ってこちらに向けて手を広げる彼だけど、何だかここまで頼るのも申し訳なくて躊躇してしまう。すると、一歩踏み出せない名前の背を押すように、彼は名前を抱き寄せた。途端、溜め込んでいた涙が一気に溢れてとまらなくなる。「今までよく耐えたな」「よしよし」 宥めるような声で、頭を優しく撫でられる。名前が泣き止んでも黙ったまま抱き寄せてくれる彼。そんな状態がしばらく続くと、不意に彼が沈黙を破る。
「…ほんと。お前みたいないい女振るなんて、罰当たりなやつがいたもんだな」
そう切り出した彼の真意は、今までの彼の行動を考えれば、もう子供でもないので理解に難くない。先程まで恋人がいたのに、こんなに早く切り替えするなんてよくない、という理性と、彼の優しさに甘えたい、愛されたい、という本能がせめぎ合う。
再び部屋に静寂が訪れる。彼が次に何を言うか、少し怖くて不安で、でもどこか期待してしまう自分もいて。忙しなく鳴り響く心音は、ぴったりと抱き合っている彼にはしっかりと届いてしまっているだろう。
「……俺が塗り替えてあげよっか 」
驚くほど艶っぽく耳元で囁かれて、背筋がゾクリと粟立つ。しかしそれは決して嫌なものではない。心のどこかで望んでいた言葉を、的確に言い当てられた故のもの。小さく頷けば、流れるような動きでベッドに押し倒され…。そうして深く深く、彼に溺れていった。