トリックオアトリートって言ってみた(桐生一馬)





「…そういや、今日はハロウィンか」

イベントに疎い男。〇〇の日系はだいたい今みたいな反応する。

「その決まり文句の意味はなんだったか…」
「お菓子をくれなきゃ悪戯するぞっていう意味です」
「…そりゃ脅しにしちゃ随分弱いな。その悪戯っていうやつの程度にもよるかもしれねぇが…具体的に何をするんだ?」

え、脅し…?
あながち間違ってはいないけれど、 そういう捉え方するんだ、と謎に関心してしまう。
やっぱり彼はちょっとズレてるところがあるなと思いつつ、悪戯の内容を考えてみる。

「例えば…くすぐりとか?あとは不意打ちのキスとか」
「…そりゃ褒美の間違いじゃねぇか?」
「うーん、でも恋人同士での悪戯でイメージできるのってそういうものな気がします」

そういえば今まで悪戯したことなんてなかったなと思いながら、想像や見聞きした情報で答えると、 「なるほどな。確かに恋人と考えると…」 と顎に手を当て真面目に受け止める彼。しばらく様子を伺っていれば、

「…でも、やっぱりさっきの例じゃ悪戯と言うには甘い気がするな」

と彼が言い出すから一瞬思考が停止してしまう。
なんだ、 この悪戯…というか脅しに対する異常なこだわりは。しかしそうやって困惑しているこちらの様子はつゆ知らず、彼はなぜかこちらを壁に追い詰め、脚の間に膝を入れ、逃げ場をなくしてきて。

「俺が脅しと悪戯の手本を見せてやる。…安心しろ。もちろんお前の言う恋人向けのだ」

彼の手が服の隙間に入り込んだところで何が始まるかは分かったし、何を言っても無駄だろうから大人しく従うことしたけれど。
今日の出来事は今年一のなんでこうなったんで賞を贈りたいと思ったし、 トリックオアトリートは封印することにした…。




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