トリックオアトリートって言ってみた(錦山彰)





「まったく、子供じゃあるめぇしよ…」

呆れつつも、ほらよ、と飴玉をくれる彼。たまたま持っていた風にポケットから取り出したけれど、彼のことだからきっと用意しておいてくれたのだろう。

「ふふ、ありがとうございます」

彼に貰ったそれを目に焼き付けてから、口の中に含む。

「…ハロウィンか。そういやお前ぇは仮装とかしたことあるか?」
「仮装?うん、学生のときに何回か」
「へぇ、何の仮装だよ」
「魔女とかシスターとかだったかなぁ」
「……」

なんだかずっと昔のことのように感じるなとしみじみ思いながらかつて過ごしたハロウィンを懐かしんでいると

「…来年」

と小さく呟く彼。

「次のハロウィン、着てくれねぇか」
「え…?着るって、もしかして仮装のことですか?」
「ああ。魔女かシスター、着て見せてくれ」

あれ、もしかして興味持たせちゃった…?絶対に嫌だとは言わないけれど、今はあの時ほど若くないし、ちょっと気が進まないなと思い、答え方に困っていると、こちらの考えを悟ったのか、苦笑する彼。

「…当たり前のことだけどよ。昔そういう服着てたって話聞いたら、俺に出会う前にもお前にはお前の時間が流れてたんだって妙に思い知らされたんだ。そん中には俺の知らないお前がたくさんいるんだって考えたら、なんか悔しい気がしてな。俺も見てみてぇって、思っちまった」

だから、いいか?
そんな風に言われてしまっては、応えないわけにはいかない。直接的な言葉は使っていないのに、その独白からは大きな愛が伝わってくるから、思わず口元が緩みそうになる。

「…来年ですね、分かりました」

そう言うと、彼は心から嬉しそうに笑った。

「何気に来年のお前の隣の席も予約しちまったな」

上機嫌な彼がそんなことを言ってくるから、「来年も再来年もその先も仮装するって言ったら、錦山さんの隣の席、ずっと予約できますか?」 なんて言ってみたら、きょとんとする彼。しかしすぐに ニッと口角を上げ、

「馬鹿。んなもん、とっくの前からお前専用の席だっつの」

と肩に手を回し、こめかみに口付けを落としてくれた。




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