トリックオアトリートって言ってみた(真島吾朗)





「真島さんトリック、」
「トリックオアトリートやで名前ちゃん!」

言う前に先に言われる。しかもちゃっかりゾンビメイク?仮装?をしてて気合いの入り方が違う。でもそれはグロテスクな感じではなく、肌の色が少し白かったり赤いカラコンをしていたりと案外シンプルなものだったから、これはこれでかっこいいかも?と思う余裕はあったり。

「なんだか今日はいつにも増してテンション高めですね?」
「当たり前やろ。今日はハロウィン、悪戯に託けて喧嘩吹っかけられる最高のイベントやで?」

ゾンビもおるしな!と楽しそうに語る彼に相変わらずだなぁこの人と苦笑する。しかし今日は久しぶりに予定が合ったというのに彼は喧嘩に出てしまうのか、なんて少し肩を落とす。

「ほな、早速桐生ちゃんのとこ行ってくるで!」

そして極めつけにはこれ。今まで何度桐生さん絡みで彼との時間を潰されただろうか。いや、桐生はまったく悪くないんだけど。でもやっぱり、どこかでもやもやしてしまう自分はいて。

「…真島さんは、桐生さんと私どっちの方が好きなんですか」

言いはしないが、こんな不満が少し出てしまったりすることが、…あ。

「……ほう」

すっと目を細め、にやりと笑う彼を見て察する。 思っていたことを口にしてしまった、 と。

「まさかナマエの口からそないな言葉が聞けるとは思わんかったわ」
「す、すみません…!忘れてください…」
「謝ることないで、ワシは素直な女は好きや。… 相手が好いた女なら尚更な」

射抜くようにこちらを見つめる隻眼は、その相手が誰であるかを物語っていて。本音を吐露してしまったことも含めて
羞恥に襲われていると、

「…さっきワシが最初に言うたこと覚えとるか」

と尋ねられる。

「…トリックオアトリート、ですか?」

彼はそれが解答であったのか意味深に笑って。

「菓子はないようやな」

なら、悪戯や。

その言葉とともに、テーブルの上に縫い付けられる。

「真島、さん、…」

縋るように彼のジャケットを握ったけれど 「ワシを引き留めたいんやったら、堪忍せぇ」 炯々と光る赤い瞳のゾンビには逆らえず。そのまま身も心も食らい尽くされてしまった。




backtop