トリックオアトリートって言ってみた(冴島大河)





「(…なんや懐かしい響きやな)」

昔、靖子とそんなやり取りをしたっけか。遠い日の記憶に思いを馳せる彼。

「…菓子渡さへんと悪戯、やったか。すまんな、今は何も持っとらんわ」
「ふふ、大丈夫ですよ。なんとなく言ってみただけなので」

むしろここでお菓子を出してきたら驚いてしまうなと思いながら笑っていると、突然近くにあったソファーに座り、目を瞑る彼。

「……なんでも受け止める覚悟はできとる」

突然の彼の行動と言動に、思わず目を瞬かせる。

「あの…もしかしてなんですけど、悪戯待ちしてたりしますか…?」
「せや。遠慮せんと、好きにせぇ」

いやいや好きにしろと言われても。確かにあの決まり文句の意味で考えれば、お菓子を渡せなかった冴島さんは悪戯させることになるのだろうけれど、言葉の通りの意味を貫く気はまったくなくて。彼は素直というかちょっと天然っぽいというか、そういうところがある。でも、彼のそんなところも未だ目を瞑ってじっとしている様子もなんだか愛しく感じられて、ちょっとした悪戯をしてみたい衝動に駆られる。かなり身長差があるため普段近くで見れない顔が、今は目の前にあることがなんだか新鮮で。こういうときにしかできないよね、と思いながら、彼が目を開けないことを再度確認し、鼻先に一瞬口付けてみる。

「…、……なんや今のは」
「…その…悪戯、のつもりです」

自分でやった事とはいえ結構恥ずかしいな、と思いつつ様子を伺うと、彼は依然として目瞑ったままで。

「…冴島さん?」
「………………………」

呼びかけても彼は無反応。え、まさかこのタイミングで寝ちゃったとか?でも瞑った目がひくひくと動いたり眉間の皺が深くなっているのを見る限り、おそらく起きてはいるようで。なんていうんだろう、その顔は何かを耐えるような…。その後、突然立ち上がった彼が 「…買い物行ってくるわ」 と言い外出し、お菓子を買ってきてくれたが、あの反応は一体…という謎は深まるばかりだった。

「…兄弟。ハロウィン言うのは恐ろしいもんやな」
「…はァ?」
「来年からは菓子用意せなあかんわ」

…その後。東城会の一部で、冴島はお化けが苦手という噂が流れたとか。その真相がただの理性との戦いであったことは彼以外に知る由もない。




backtop