トリックオアトリート!と言った後、彼はおもむろに片手で口元を抑えるから、頭に?マークが浮かんでしまう。…前提として、彼は恋人にベタ惚れだ。結論として、彼は疲れている。それを分かった上で彼の心境を代弁すると
「(…俺の彼女、可愛すぎだろ…)」
子供のように無邪気にはにかんで、菓子をねだる恋人の、なんと愛らしいことか…。思わず口角が緩んでしまったのを反射的に手のひらで隠して、必死ににやけを抑えて。これが、東城会六代目会長・堂島大吾の現状と実態である。
「…どうかしましたか?あ、なかったら無理しなくても…」
何も発しない彼にそう投げかけると、ハッとしたような顔をする彼。なぜか気まずそうに視線を逸らすと、小さなため息とともに、「…笑わないか?」 と一言。
「は、はい…?」 曖昧に答えると、僅かな沈黙の後。
「…お前の可愛さに悶えてた」
「……えっ」
思わず未だ視線を逸らしたままの彼を凝視する。遅れて少しずつ頬に熱が集まってくるけれど、正直今のやりとりのどこに可愛さを見出したのかが分からなくて若干混乱する。
「…もしかして、トリックオアトリートって言ったのが、ですか?」
「……」
「…可愛くはないと思うんですが…」
「…別に誰かに共感してもらいたいわけじゃない。俺だけわかってればいいんだよ」
…な、なるほど。いろいろと分からないけどとりあえず、彼は自分が思う以上に自分のことを好いてくれていることだけは分かったので、嬉しくなる。
「じゃあこれからもずっと大吾さんだけに言いますね」
そう微笑みかければ、
「…そうしてくれると助かる」
と慈愛のこもった瞳でこちらを見て、お菓子を差し出してくれた。
…ずっと、か。そのセリフを心の中で噛み締めている彼に、こちらが気付くことは無い。