「…………」
あ、目が語ってる。いい歳してなに子供みたいなこと言ってはしゃいでるんですみっともない恥ずかしくないのかって言ってる。 私にはわかる…。 でも、 彼がどんな反応を見せるのかが気になってしまったのだから仕方がない。めげずにそのまま様子を見ていると、どこか諦めたようにため息をつく彼。
「…どうぞ」
と、差し出してきたのは、元々デスクの近くに置いてあったらしいブラックチョコレート。結局は折れてくれる彼に愛しさが募り満面の笑みを浮かべると、小走りで彼の元へ向かい、それを受け取り、さっそくぱくりと口に含む。うわ、なにこれめちゃくちゃ美味しい…。
もしかしたら彼のことだし、ちょっとお高めなチョコだったのかな、なんて呑気に思っていると。
「…えっと、峯さん?」
突として、なぜか彼に手首を掴まれてしまう。状況が掴めなくて首を傾げていると
「…先ほどの決まり文句は仮装をした者が言うから許されるのでは」
と彼の声。
「え…」
「形式上、悪霊や魔女扮した者に悪戯されるのを恐れて、菓子を渡すものじゃないんですか。仮装もしてないあなたがしたのはただの菓子強請りだ。そしてこちらには損しかない」
まずい。この流れは非常にまずい…。こうやって人の揚げ足を取って自分が有利になるよう進めるのは彼の得意分野。正論に対しては何も言えないけれど、とにかくなんとかしないとまずいことになる。でも、彼が簡単にそれを許してくれるはずもなく。
「あのチョコレート…美味かったですか」
「……まさか、」
「一口で食っていましたが、値段を聞いたらおそらく同じ食い方はしないでしょうね」
───円です。
耳元で囁かれた声に青ざめる。終わった…かもしれない。口の中に僅かに残るビターチョコの後味がやけに苦く感じられる。
「…わ、私はどうすれば…」
「…等価交換でどうですか」
「そんな…そこまで価値があるものなんて私、」
「よく考えてみてください。俺にとってなにが一番価値のあるものなのかを」
澄ました顔をしているが、こちらを見る双眸はギラついていて。自惚れたような発言はしたくないけれど、細々と
「…わたしですか」
と言えば、
「…それは釣りが出てしまいますね」
と嗤い、引き寄せられ、 強引にチョコの対価を払わされることになった…。