トリックオアトリートって言ってみた(秋山駿)





絶対なんか企んでるから言いたくない…けど、結局怖いもの見たさで言ってみる。

「…参ったなぁ、困ったことに今何も持ってないんだよなぁ…俺、どんな悪戯されちゃうんだろ。怖いなぁ」

ソファーにどっかり座わり込んで期待の眼差しを向けてくる人が、怖いだなんて思っているわけが無い。その顔は絶対 “そういう” 意味の悪戯が欲しいって主張していて。

確信犯の思惑通りにするのはかなり癪だけど、いっそあえて大胆な行動をして、彼を驚かせられないだろうか。そんな好奇心に負けて、座っている彼の傍へ近付き、太腿の上に跨ってみる。

すると彼は僅かに驚いたような目をしたけれど、それも一瞬。すぐさま余裕そうな表情で 「…それで?」なんて目を細めてきて。

どこか艶めいた声色に部屋の空気が一気に色付くと、体の熱が上がってしまう。甘い挑発に負けじと彼の肩に手を乗せ、首筋に軽く口付けてみる。どうだ、と赤面した顔で見れば、再び 「…それから?」 と続きを促してくる彼。

その時点でもうこちらは白旗を上げる寸前で。これ以上何をすれば、と頭をぐるぐると巡らせショート寸前になったとき、彼が急に喉を鳴らし笑い出す。

「…ごめん、さすがにいじめすぎたかな」

反省する気が全くない謝罪の言葉に色々な意味で顔を紅潮させていると、「これでも食べて機嫌直してよ」 と口にチョコレートを捩じ込まれる。お菓子も悪戯も、貰ったのはこちらの方だというのに、与えた側が上機嫌なのはなぜだろう…。

口の中で徐々に溶けて行くそれは、いつもの数倍甘ったるい心地がし、 胸焼けしてしまいそうだった。




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