トリックオアトリートって言ってみた(谷村正義)





「はいはいでたよそれ。警察の嫌いな言葉ランクTOP5に入るヤツ。まったく、毎年振り回されるこっちの苦労も考えて欲しいよね」

その言葉は、彼にとってどうやら地雷だったらしい。ハロウィンの日の警察官は、素人の私でも分かるくらい大忙しで。さすがに渋谷ほどじゃないけれど、神室町のハロウィンだってそれなりに人が集まるから、当然彼も駆り出されるし、現に今仕事へ向かうところでもある。

一般人(?)にとってはハロウィンって結構楽しいものなんだけどな。積極的に参加しない人だって、友人とお菓子交換をしたりハロウィン色に染まった街並みを見たり。でも、彼にとってはそれも目を顰めたくなるようなものでしかないのだろう。げっそりとした顔の彼を見て、どうにか表情を和らげられないだろうか、と思いを巡らせて。

「…じゃあ今年からは、私が谷村さんもハロウィンを楽しめるようにします」
「…へぇ?どうやって?」
「さすがにハロウィンは一日中仕事でしょうし、次の日にできること…あ、谷村さんの好きな料理作りに行きます」
「まぁ、そりゃありがたいけどさ…ハロウィンじゃなくていいよなそれ」

確かに。好きな料理を作るのは別の記念日にできるし、わざわざハロウィンにすることでは無い。上手くハロウィンを要素を入れて、谷村さんも楽しめること…。

「……私が谷村さんのご希望の仮装をする、とか?」

思いつきで口走ったが、後にとんでもないことを口にしたことに気がついた。仮装なんて気が進まないし、それで彼が喜ぶと考えていることもなんだか自惚れみたいで恥ずかしい。慌てて前言撤回しようとすると、先ほどからぽかんとしていた彼が

「………マジで?」

と呟いた。

「え?えっと、」
「ほんとにいいの?何でも?」

まずい。思ったよりも食い付きがいい。でも、彼の様子を見る限り期待しているのは明らかで。

「…際どすぎるのでなければ」

気付いたらそう言ってしまっていた。うわマジか、何にしよ、とぶつぶつ独り言を漏らしながら口元を抑える彼に

「ちょっとでもハロウィン楽しみになってくれました…?」

と訊ねると

「なった。超なった」

とVサインをして貰えたので、とりあえずは良かったのかな、とほっとする。

「ありがとな。…楽しみにしてる」

そう言って軽く頭を撫でる彼に、自分という存在が彼を喜ばせることの出来る立場にいることを幸せだと感じた。




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