トリックオアトリートって言ってみた(品田辰雄)





「……うーーーーん」

なぜか腕を組んで悩み出す彼。あれ、確かトリックオアトリートって、お菓子をくれなきゃ悪戯するぞって意味だよね?悩むってどういうこと…?眉間に皺を寄せる彼に 「悩むことですか?」 と訊けば、彼は大きく頷く。

「悩むに決まってるよー…君にお菓子をあーんして食べさせてあげるか、あんな悪戯やそんな悪戯されちゃうのか…どっちも捨て難いよね」
「…なんて?」

どうやらトリックオアトリートは彼にとって都合のいい意味に脳内変換されたらしい。

「…その、どっちもやりませんからね?」
「え!そんなぁ…」

分かりやすく落胆する様子に、いやらしいことばかり思いつく人だな、と逆に感心していると、突として 「こうなったら…」と小さく零し、「秘技・トリックオアトリート返し!」と声を上げる彼。

「あの、品田さん…?」
「俺も君にトリックオアトリートって言う権利、あるよね?」
「そりゃないことはないですけど…」

何をもって今それを言っているのか考えあぐねていると、次は「じゃあ君はお菓子持ってる?」 と尋ねられる。

「今は…持ってないです」
「ちなみに俺も持ってない。…てことはさ、どっちもトリックだね」
「…そうなりますね」

真意が掴めないけれど、彼の表情がどんどん妖しくなっていくから、何となく嫌な予感しかしなくて。

「…品田さん?」

恐る恐る尋ねてみると、不意に胸に抱き寄せられ、背中に手を回されて。

「ならさ、悪戯し合いっこしよ?」

その言い方と状況、何より他でもない彼がそれを口にしている時点で、意味深なニュアンスが含まれているのは明白。

「…拒否権は、」
「元はと言えば君が言い出したんじゃない…だめ?」

彼のその言葉にはめっぽう弱いため、もはや何も言えず。そのまま悪戯という名の睦合いは彼が満足するまで終わらなかった。




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