「よっ、名前」
後ろから肩を叩いた彼に笑いかけられるが、いつも通りの笑顔を返すことができない。彼はそんな様子を見て僅かに動きを止めるけれど、それも一瞬。なにも気づかなかったように 「今帰りか?時間あるなら一緒にメシ行こうぜ」 と訊いてくる。
もともと料理を作る気力もなかったので彼の提案は助かるけれど、 上手く受け答えできるかがやっぱり不安で。答えに少し時間を要してしまう。
「ラーメン食いに行くだけだって。服はそのままでいい」
そう放った彼に背中を押され、そのままついていくことになるが、このときも彼はこちらの心理を察しながらも、徹底して知らないフリを貫いている。
それから行きつけのラーメン屋で端の方の席に座っていると、10分と経たずしてラーメンが出てくる。気分に影響されて胃が食べ物を受け付けない可能性も考えていたけれど、一口食べてしまえばそれは要らぬ心配だったって分かる。むしろ美味しい食べ物を彼とともに食すことが、自分に元気を与えてくれる。
「……で、何があったんだ?」
お互いが食べ終わって早々にそれを口にする彼に、え?、と驚きの表情を見せると、何もなかったとは言わせねぇぜ、 と返されて。
「気づいてたんですか?」
「当たり前ぇよ。俺がどんだけお前を見てきてると思ってんだ」
なぜか得意気になる彼に思わず笑いそうになる。一連の彼らしい慰め方にじんわりと胸が熱くなり、彼への思いが溢れ出してしまった。