あなたが珍しく落ち込んでしまったとき(真島吾朗)





「なんや辛気臭い顔しとるな」

一人とぼとぼと歩いていたら街中でそう彼に話し掛けられる。その声に少し元気を取り戻しかけるけど、やっぱり普段通りに振る舞うのは難しくて。曖昧な笑顔を作ると、「この後予定あるんか」 と聞かれる。いえ、と短く答えれば、「じゃ、ワシの用事に付き合うてくれるか?」 と言われるので、そのまま彼について行くことにする。

そして、辿り着いた先はお馴染みのバッティングセンター。用事ってこれ?、と疑問に思いながらも、彼に促されバットを手にする。最初は全くヒットしなかったけれど、彼に教わっているうちに今では少しずつ上達しつつあって。かきん、という子気味良い音と共にボールが飛ぶ様は、結構スカッとしたりする。

「お、なかなかにええスイングやないか」

そうやって笑みを見せる彼につられ、思わずこちらも笑みを浮かべると、

「……やっと笑ったのう」

ぐしゃりと頭を撫でられて、なぜか今まで堪えてきた涙が溢れてしまう。いや泣くんかいな、なんて少し呆れたように言いつつも、彼は片手で抱き寄せてくれるし 「よう頑張ったな」 と優しく声を掛けてくれるから、胸があたたかくなる。

彼の言っていた用事というのもこちらを慰めるための方便だったのだろうと気づいたら、彼への思いが更に増してしまった……。




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