落ち込んでいるのを悟らせまいと何も無かった風に振る舞っていると、なぜか段々と彼の表情が険しくなっていって。「どうかしましたか?」と笑いかけると「……無理して笑うんやない」と切り出される。
「何かあったんやろ?気は進まんと思うが、言うてみい」
自分から悩みを言い出せない質であることを知っているので、彼の方から促してくれる。
解決策を求めているときは親身になってアドバイスをして、自身の失敗に嫌気がさしているときはあたたかい言葉をかけて。こういう姿を見ると、かつて彼が教師を志していたという話を思い出す。
「……冴島さんって、先生みたいですね」
「なんや急に」
思わず頭に浮かんだことを口にしてしまったが、彼はどこか訝しむような表情をしていて。誤魔化すようにふふ、と笑うと、突として彼に抱き寄せられる。きょとんと顔を見上げれば、
「先生はこないなことせぇへんやろ」
と彼が悪戯っぽく笑うから少し驚く。彼は心が広いようでいてたまにこのような些細なことを気にする節があって。そんな彼を愛おしく思いながら、望み通り身を寄せて甘えると、彼は背に手を回し、そのまま何度も優しく撫でていてくれた。