あなたが珍しく落ち込んでしまったとき(峯義孝)





落ち込んでいる様子を初めて見たときは、さすがに動揺してしまう。上手い言葉が見つからず声を掛けられなくて、でも放っておくなんてできなくて、どうにかしようと思考を巡らせて。まずは何も言わずにハーブティー出してくれる。

「……なにかあったのか」

しまった。悩んだ挙句、結局ありきたりな台詞が出てしまったな、と内心自省していたりする彼。

「……」

こんなことで悩んでるのかって呆れられたくないな、とか、めんどくさい女だって思われないかな、とか、様々なことを考えてしまって、その問いに対してなにを言っていいか分からない。言葉に出来ず、口を開いたり閉じたりして、結局目線を逸らしてしまうと、彼がフッと鼻で笑う音が聞こえて。

「こういうとき、 人に触れる経験に恵まれなかった俺の過去を恨むな……自分の女一人慰める方法すら分かりやしない」

その声は己を自嘲するようでいて、どこか不安を滲ませたものだったから驚いてしまう。思わず目を見開いたこちらの様子を見て、「柄じゃないか」と尋ねる彼に「いえ、嬉しいです、とても」と笑いかける。

……ただ、そばに居て欲しいです。

遅れて彼の知りたいであろう答えを告げると、彼は僅かに瞠目した後、そうか、とだけ零して、言葉通りそばに居てくれた。




backtop