あなたが珍しく落ち込んでしまったとき(郷田龍司)





彼の顔を見ればこの沈んだ気持ちも少しは楽になるかな、と思い、たこ焼き屋に向かう。 運良く他のお客さんはいなかったので、彼と軽いやり取りをすることが出来る。しばらくして、そろそろ帰ろうかと思案していたとき。

「……今日はやけに覇気ないやないか。何かあったんか」

なんて聞かれてしまって。やっぱ気づいちゃうか。彼を心配させたくないからそういう素振りを見せないように努めていたけれど、結局彼に隠し事は通用しなくて。嬉しいような、困るような。複雑な気持ちを抱きながら 「……うん、ちょっと」 言葉を濁して呟くと、数秒の沈黙の後、

「少し待っとき」

と彼の声。そしてなぜか片付けを始める彼に 「なにしてるの?」 と尋ねると「何て、今日はもう店仕舞いや」と聞かれるからきょとんとする。

「え?どうして……」
「こないな名前放っておけるわけないやろ。気になって仕事にならんわ」

そう言って再び締め作業に戻る彼に、じわじわと頬が緩んでしまう。常々思うが、やはり彼は世間で言うところのスパダリなのだろう。

帰宅後もすぐにお風呂を洗って沸かしておいてくれるし、風呂から上がったら料理が出来上がってるし(しかも好物)、至れり尽くせり。彼だってつい先ほどまで仕事をしていて疲れているはずなのに、善意120%で尽くしてくれるから本気で涙出そうになる。

そういう環境のおかげもあってかなり気持ちも落ち着いたあと、ぽつぽつと事の経緯を話すときも、 ずっと隣に寄り添っててくれるの最高です。




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