あなたが珍しく落ち込んでしまったとき(秋山駿)





「……もしかして俺のこと考えてる?」

今の状態で彼と普通に話せる元気があるとは思えなかったので、スカイファイナンスを通り過ぎ、ビルの屋上で黄昏れていると、後ろから彼の声が聞こえてきて。見当違いなことを言う彼に、つい口を尖らせてしまうと、「ごめんごめん、冗談だよ」 と笑った後、彼は隣に並んでくる。

それからふと視界に彼が何かを差し出してくるのが見えるから、おもむろに視線を移すと、それは缶のミルクココア。冷たくなっちゃうよ、と彼に促されてそれを手に取ると、冷え込んでいた指先に熱が宿る。

「……ありがとうございます」

そう小さく零して早速それを口にすれば、仄かな甘さとともに温かな熱が、じんわりと身体に染み渡る。

「……なにかあった?」

軽いようでいて、真剣みがあって、でもしっかり優しさも孕んでいるその声は、先ほどとは明らかにトーンが異なっていて。さっきまでのやりとりは緊張感を和らげるためだったのか。そういう細かい気遣いを感じる度にこういうのにやられちゃう子多いんだろうな、かくいう私もその一人なんだよな、なんて思ったりする。

「……実は、」

そうやってこちらが話出しさえすれば、もう確定演出まったなし。 こういうのは彼の得分野だし、完璧なケアが待っているのは言うまでもない。




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