帰宅後、彼にただいまと言って、手を洗って、着替えて、夕食の準備を始めて。そのひとつひとつの行動をする度にため息が漏れるし、いつもの倍億劫で。
唯一の救いは、彼が未だ原稿に向かって作業をしている最中だということ。せめて夕食を作り終えるまで、彼の仕事が終わるまで。それまでに気持ちを落ち着けようと心を抑え込む。
いっそ玉ねぎでも切って涙を流せば、泣く理由ができるしすっきりするかな、 と思ったそのとき。背後からふわりと彼に抱き締められて。あれ、さっきまでペンを手にしていたのに、と少し驚きながら「いきなりどうしたんですか?」と尋ねる。
「んー、名前ちゃんが抱きしめて欲しそうにしてたからかな」
何かと思ったら急にそんなことを言い出すから 「もう、なんですかそれ」 ってつい笑ってしまう。しかし彼はそれに対して特に何かを答えることなく、抱きしめる腕の力を僅かに強めてくる。
「……なにかあったの?大丈夫?」
頭上から優しく響く声に顔を見上げれば、不安に揺れる瞳がこちらを覗いていて。彼の行動の全てから “心配です” と伝わってくるから、胸に温かいものが込み上げてくる。
彼へ感謝を述べたあと、落ち着いたらまた話しますね、と伝えれば、さらにぎゅっと抱き締めてくるのが少しくすぐったくも嬉しくて仕方がない。
その後も 「俺になにかできることある?」「待って、それ俺に手伝わせて!」「無理は絶っ対だめだからね!」 ってずっとアワアワそわそわしてるのとても愛しい……。