半裸になった恋人を見て、瞬時に何があったかを理解する。刹那、相手が動揺している隙も許さず、拳を振り上げる。群がっていた者達をあっという間に打ちのめすと、恋人に跨っていた男に強烈な一撃を与え、倒れた男の胸倉を掴む。
「……死ぬ覚悟は出来てんだろうな」
ドスの利いた声。彼の表情が憎悪に歪む。男は必死に許してくれ、と言うも、彼はもちろん聞く耳を持たない。
「……桐生、さん」
その言葉にハッとすると、男を殴ろうとしていた手を止め、こちらへ向かってくる彼。そして、手の届く位置まで近づいたと同時に、彼に抱きつく。彼は血塗れた拳を見て抱き寄せるのを一瞬躊躇うも、小さく震える恋人の存在を感じると、抑え切れずに背中に手を回して。
「名前」
彼の口から自身の名が紡がれる。それは先程とは打って変わって、あまりにも力のない声だった。
「……すまない。俺がもっと早く来ていれば、こんなことには……」
苦しいくらいに抱き締められて、彼の思いが痛いほどに伝わる。彼はなによりも、事が起こる前に助けられなかった自身を責めていて。
「桐生さんは、悪くないです……むしろ、私の方こそなにも出来なくて……」
「なに言ってんだ。お前は何も悪くねぇだろ」
「……なら、桐生さんも悪くないです」
だから、一人で抱え込まないで?
そんな気持ちを込めて伝えると、彼が息を飲む音が聞こえてくる。次には密着していた身体が僅かに離れると、性急に唇を奪われて。彼は何度かそれを繰り返した後、愛おしげにこちらの頬を撫でる。
「……アイツら、とてもじゃねぇが許せそうにないな。気抜いたらまた手が出ちまいそうだ」
彼の言葉から感じられる嫉妬心に、 ぞくりと快感が込み上げる。そんな彼に、せがむように首元へ手を回せば、熱くて濃厚な口付けとともに、互いの存在と思いを確かめ合った……。