ドスを手にした男が部屋に入ってきたことで、絶望しかけていた心に光がさす。
「名前」
基本ちゃん付けで呼ぶ彼だから、滅多にしない呼び捨てをされてどきりとする。そのまま彼を見つめるけれど、目が合うことはなく。彼の炯々とした隻眼は、狩るべき獲物に向けられていた。
「……こいつら今すぐ片付けたるから、少し待っとき」
普段よりワントーン低い声でそう紡いだ後。彼は目にも止まらぬ早さで動き出し、1分も経たずしてその場の全員を寝かせた。
遅れて真島組の若衆たちが部屋に入ってくると、彼らを遮るようにこちらの前に立ち、乱された服をジャケットで隠してくれる彼。
「雑魚は放っておいてええ。頭は捕まえとき。……後で俺とゆっくり話せなアカンからな」
端的に指示を出すと、彼はこちらを抱いてその場を去る。
その後、外に用意してあった車に乗ると、諸々の疲労や安堵から眠気に襲われるんだけど、「起きるまでワシがそばにいたるから、安心して寝とき」 と優しく撫でられるから抗えなくなり、微睡みに沈んでいく。
そして目が覚めると、言葉通り一緒にベッドで横になっている彼。意外と早かったのう、という彼の言葉から、おそらくそこまで長く寝ていなかったことが分かる。
「……真島さん」
「なんや」
「私…戻って来られたんですね」
「……あぁ、せやで」
彼に抱き寄せられ、その熱を感じたことで、これは現実なのだと実感し、つい泣いてしまいそうになる。
「もう二度とお前をあんな目に遭わせへん。指の一本も触らせへん。……せやからワシを信じて、これからもそばにいたってや」
そう言って、抱き締める腕を強める彼に、ついに涙が溢れてしまう。彼の言葉はじわじわと心に溶け込んで、さきほど起きた悲劇はあたたかな感情によって掻き消されて。彼が自分にとっていかに大きな存在なのかを思い知らされることになった。
……このときの彼が、捕らえた男とどう “話し合う” かを考えていたことは、また別のお話。