拉致された恋人の救出に向かったら、男に乱暴されかけていたときの彼(冴島大河)





恋人に跨る男を見た瞬間、カッと目を見開き、すぐに行動に移る彼。後ろから男の襟を掴みあげると、そのまま後ろへ投げ飛ばす。そしてあられもない姿をしている恋人を見て、目の前が真っ赤になる。当然あっという間に相手側を倒してしまうけれど、強い憤りから相手の動きを封じる為、というよりかは、恨みの感情で攻撃をしてしまう彼。ぐったりとする男の胸倉を掴み、拳を振り上げようとしたそのとき、ふと視界の端に恋人の姿が映って我に返る。

「……こないなこと二度とするんやないで」

一言呟き相手を解放すると、部屋にいた男たちはフラつきながらも一目散に逃げていく。彼はその背中を見送った後、恋人の前へ向かい、膝をつき。そして自らが羽織っていたジャケットを着せるとおもむろに抱き締めてくれる。

「……遅れてすまんかった。怪我は?」
「…拘束されてた部分が少し…でも大丈夫です。ありがとう、ございます…」
「……さよか」

彼の大きな体躯包まれながら優しい鼓動を感じると、安心感が滲み出てきて、どうしようもなく涙が溢れてしまう。しかし彼はその間も、黙って抱き締めてくれていた。

その後、とりあえずその場から離れることになるが、家は歩いて行ける距離になく、タクシーもこんな状態じゃ使いづらいということで、近くのホテルに入ることになる。(なぜか彼が別の部屋にしないかと提案してきたが、一緒にいて欲しいと伝えれば、断ることはなかった。)

恋人がシャワーを浴び終え部屋に戻ってくると、鎖骨付近に映える痕が目に入り、ドッと頭に血が上る彼。気持ちを抑え込むように視線を逸らすも、跨る男、紅い痕。自分の女が別の男にそういうことをされたという証拠たちが、脳裏に焼き付いて離れてくれない。やはり別の部屋にすべきだったと後悔しながら、彼は恋人と一定の距離を保つことにする。

でもそんな事情も知らない恋人側は、彼を不審に思うしそばにいてくれないのが寂しい。痺れを切らして彼にぴとりとくっつけば、彼が視線を逸らしたまま「……すまん。離れてくれへんか」と言うから驚いてしまう。

「どうして…、」
「……今の俺は嫉妬でおかしなっとる。何しでかすかわからんのや」

予想していなかった言葉に目を丸くするけれど、何かを耐えるように拳を握り締める彼を見て、なんとなく意味を理解する。

「冴島さんで、忘れさせてくれませんか」

そう言うと、彼はやっとこちらを向いてくれる。

「……何言うとるんや。無理せんとはよ寝とき」

驚きの感情の奥に見え隠れする情欲、期待、悋気。彼に向けられるそれは、ちっとも嫌悪感はなくて。

「私が、そうして欲しいんです」

煽るように彼の首に手を回せば、そのまま唇が重なり、ベッドへなだれ込む。

「……後悔しても、知らんで」

そうして、嫌な記憶は全部、彼によって、塗り替えられていった……。




backtop