拉致された恋人の救出に向かったら、男に乱暴されかけていたときの彼(峯義孝)





恋人の姿を確認した後、あくまで冷静な態度で携帯を取り出す彼。一言、二言、端的に指示を出すと、そのまま通話を切る。そして、底冷えするような瞳で相手を見据えれば、相手はまるで凍りついたかのように動きを止めた。

コツコツコツ、と彼の上質な革靴が子気味良い音を立てて響きわたり、相手との距離が狭まっていく。 やがて手の届く距離まで近づいた刹那、こちらを拘束している男の腕を捻りあげると、腹に一撃を入れて吹き飛ばす。その様子を呆然と見つめていれば、上から彼の上着が降ってくるから、多分着ろという意味だと判断して前を隠すようにして羽織る。

それから周囲にいた者も全て起き上がれない状態にすると、彼は主犯格であろう男に何度も何度も蹴りを入れる。さすがにやりすぎだと思いつつも、彼の様子から見て恐らく何を言っても火に油なのでとても声は掛けられない。暫くして彼の部下が到着したことで彼はやっと動きを止める。

「連れて行け」

その一言とともに部屋にいた者たちが去ると、彼と二人きりになる。

「……ごめん、なさい。私、後にも先にも峯さんだけって、約束したのに……」

冷静になると罪悪感が募ってきて、出てきたのはそんな言葉。彼の顔が見られずに俯いていると、

「……なら、今からもう一度誓えるか」

という彼の声が降ってきて。意味を図りかねていると、不意に左手を取られ、薬指の先にひんやりとしたものが触れる。視界の端で光るそれを捉えれば、思わず顔を見上げてしまう。

「……ただのカタギの女に人員を割くのは限界があるが、俺の女という肩書きがあれば問題なくなるはずだ」

予定より早くなったが、今答えられるか?

そう尋ねる彼は今までに見た事がないほど真剣な表情をしているように感じられて。涙を滲ませながら、「もう一度、誓います。私には、峯さんだけしかいないって……だから、」 まるでその後の言葉は不要という風に、少しの時間も惜しいという風に、彼は性急に口を塞ぐ。

絡み合った指と指、左手の薬指にはしっかりと、永遠の象徴が煌めいていた。




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