拉致された恋人の救出に向かったら、男に乱暴されかけていたときの彼(秋山駿)





「……遅くなってごめん。もう、大丈夫だから」

拉致してきた男たちを倒した後、そう言って抱き締めてくれる彼。耳元に響く優しい声に言いようのない安心感が募り、つい涙が溢れてしまう。

そして家に着くと、「とりあえず、シャワー浴びよっか」と言ってくる彼。特に何も考えずに、はい、って応えるんだけど、彼が脱衣所まで一緒についてくるから困惑する。

「…あの、秋山さん」
「ん?」
「…もしかして、一緒に入るんですか?」
「うん、そのつもり」

彼とはそこまで短い付き合いではないけれど、恥じることなく共に風呂に入れるほど長い付き合いでもないから、素直に受け入れづらくて。えっ、という顔で彼を見続けていたら、

「……俺が綺麗にしてあげる。安心して、何もしないから」

と言われてしまう。結局、半ば強制的に彼と入ることになるんだけど、本当に下心ない様子で優しく洗ってくれる。逆にこっちの方が羞恥心あるし変な気持ちなりつつあるしで少し複雑な気持ちになっていたり。湯船に浸かるときも、向かい合うのは心臓が持たないから彼に背を向けてしまう。

何を話していいか分からず沈黙を貫いていると、突然首筋に彼の手が触れる。

「……ここ、赤くなってるね」

親指で同じ箇所を二、三度なぞられると、ちりりとした痛みが走るから、そこに何があるかを一瞬で理解して息を飲む。

刹那、そこにぬるりとしたものが触れて、思わずびくりと震える。じゅ、と卑猥な水音が浴室に響けば、鼓膜が刺激された。

「…これで俺の痕になったかな」

その言葉から滲む感情に気づくと、胸の奥がきゅ、と疼いてしまう。

「……他も全部、俺が上書きしていい?」

そうやって甘く懇願されてしまえば、断る選択肢なんてもう無くて……。

彼の「何もしないから」発言はやっぱり反故になったけれど、頭を覆っていたあの出来事は、緩やかに彼で埋め尽くされていった。




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