相手が動揺している内に、速やかに拘束されている恋人を解放してくれる彼。
「……っ!」
そして、項垂れた恋人の様子を見て瞠目する。目尻に涙を溜め、頬は殴られたのか僅かに血が滲み。乱れた服から覗く肌に映えた紅は、男たちに何をされたのかを物語っていた。
それを理解してからの彼は速くて、相手は為す術もなく地に伏せることになるが、逃げ出そうとする者や戦う意思のない者までも容赦なく攻撃を繰り出す彼には、少し違和感を感じる。
とうとう銃を取り出した所でやっと彼が正気じゃないことに気がつくと、急いで彼の元へ走り、銃を握っている腕を掴む。
「谷村さん!落ち着いてください…!」
「……止めるなよ、名前」
「だめです」
「ッだってこいつら、名前を…!」
「…本音を言えば私、谷村さんがここまでしようとしてくれていることを、嬉しいと思ってしまっています。…でも、気持ちだけ受け取らせてください。ありがとうございます、谷村さん」
そう言うと彼は目を見開き、 やがて悔しそうな表情で銃を下ろす。
「クソッ……!!」
若干涙声になっていた彼の瞳は、先程とは変わって憎しみよりも悲しみの感情を多く宿していて。そんな彼を慰めるように抱き締めれば、壊れ物を扱うかのように優しく抱き返してくれるから、元の彼に戻ってくれたのだと分かって、胸が温かくなる。
「……私、一番怖かったのは、谷村さんに振られることだったんです。恋人以外の男の人に触れられた女なんて、やっぱり嫌かなって」
「…おい、そんなこと考えてたのかよ。じゃあ、尚更びっくりしただろうな。実際はお前に狂った男が、危うく相手殺しかけるなんてさ」
彼の発言から、やはりあれは本気だったのだと分かるから、苦笑いしかできない。そんなこちらを他所に、不意に彼は傷のついた頬を片手で撫でてきて。
「……もう絶対、傷つかせないから」
強い決意を感じさせるその瞳はもう、濁りのない正義のひとのそれだったから、心底安心した。