毎度のことながら、こういうイベントは直接家まで押しかけてくる彼。けど、勘違いしちゃいけない。この人は普通じゃないから。きっとこういうことを、平気で誰にでもやってのけるのだ。
「ほれ、チョコ渡さんかい」
「あ、はい!どうぞ」
「…ほう?えらいシンプルやのう」
「え、そうでしたか…?」
「ま、ええわ。おおきにやで」
にひ、 と笑った彼は、 もう用事が済んだのか、満足そうに玄関へと足を進める。
「…あ!ちょっと待ってください、真島さん」
「なんや、まだなにか用意しとるんか?」
「いえ、そうじゃなくて…今日って西田さんと南くんは予定空いてますか?」
彼らの名前を出すと、一瞬にして表情を険しくさせる彼。
「…なんや。あいつらになんか用か」
「実はお二人にも渡そうと思ってて。西田さんには色々とお世話になっていますし、南くんにはあげるって約束してるんです。もしお二人の都合が分かってれば教えてくれませんか?」
「はァ?なんやそれ。あいつらにはええやろ」
「まぁそう言わずに。もし会うのがだめなら、真島さんから渡してもいいですから」
そう言って二人の分を取り出すと、彼の表情が固まる。
「…ちょお待ち。あいつらの分、ワシとおんなじ見た目しとるで」
「?ええ、そうですね。みなさん同じものですよ」
「…まさかコレ、義理かいな」
「はい、そうですけど…あの、真島さん?」
なぜか彼の背後にメラメラと燃えるようなオーラが見えてきて、嫌な予感がする。
「…アカン!ワシは本命以外受け取る気ないで!」
「え!?そんな横暴な…!」
「何が悲しゅうてわざわざ女の家押しかけて義理チョコ貰いに行くっちゅうねん!」
「知りませんよ!というか私じゃなくても、真島さんなら本命の一つや二つ、他の子から貰えるんじゃないですか?」
彼はそれを聞くと、頭を抱えて盛大なため息をつく。
「…ちゃうわ。誰でもええから欲しいんやない。他でもないお前からのが欲しいんや。ええから、はよ出し。ないなら今から作るんやな」
「えぇ…真島さん、本命って意味わかってますか? それって、好きな人にあげるやつで」
「あ?なら問題ないやろ」
「…はい?」
「今更誤魔化してもムダやで。名前ちゃんがワシを好きなことなんかとーっくにお見通しや」
「…!?」
そんな馬鹿な。あんなに上手く隠し通してきたはずなのに。カマをかけている可能性も考えるけれど、にんまり笑った顔に 『バレバレやで?』と書いてあるから羞恥で叫びそうになる。
「ほれ、もう観念しい」
こうなってしまってはもう、 彼から逃れる手はない…。