彼に好意を抱きながらも義理チョコを渡したとき(郷田龍司)





本命か義理かも宣言せず普通に渡すと、「おおきに」 と普通に受け取ってくれる彼。

む、無理…本命渡せる勇気ない…!
来年に賭けるか、それまでに別の方法で告げるか。昨晩、頭の中で何度もシミュレーションしたというのに、結局こうなってしまったか…。相変わらず意気地無しな自分に呆れながら踵を返そうとしていると、「…待てや」と彼の声。

「これで終わり言うわけやないやろな」
「え…? 龍司さんにはもう、ちゃんと渡しましたよね…?」
「…もう一つ持っとるやろ。ワシ以外にやるつもりなら、行かせるわけにはいかんのう」

まさか、バレていたとは…。思わぬことに瞠目していると、彼はスッとこちらを見据えて、力強い眼光を浴びせる。

「…これは、その。実は本命チョコなんですけど、勇気が出なくて渡せなかったもので。だから、龍司さん以外の人の手には渡りません」
「……」

彼は一瞬、思考が停止したように動きを止めるけれど、数秒の後にハァ、とため息をつき、呆れたような目でこちらを見てくる。

「それが何かなんぞとっくに分かっとるわ。ワシはその上で、ワシ以外に渡すな言うとるんや。…ここまで言えば、もう分かるやろ」

これが本命だとわかってて、龍司さん以外の人には渡さないでって…え。それってなんだかまるで、龍司さんがこちらの本命を欲しいって言ってるみたいじゃ…? じわじわと顔が紅くなっていくこちらの姿を見て、彼は『やっとわかったか』と言わんばかりに、にやりと笑う。

「答え合わせや。なにが分かったか言うてみい」

…わざわざ言わせるなんて、 意地悪なひと。けれど、悪態をつく心に反して、心音は高まるばかりで。

「…龍司さんは、私の本命が欲しいってこと…です、か?」

これで違ったら、恥ずかしくて死んでしまう…。そう思いながら返事を待っていると、「…惜しいのう」 と彼が呟く。

「…なら、正解はなんですか…?」

疑問のままにそう尋ねれば、彼はそう聞かれるのを待っていた、というふうに、満足そうな表情をして。

「…ワシが、お前に惚れとるいうことや」

あまりにも直球な言葉に違う意味で死にそうになってしまったのは、言うまでもない。




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