彼に好意を抱きながらも義理チョコを渡したとき(品田辰雄)





「えっ…これを、俺に!?」
「はい」
「ぃやったーーーー!!」

とりあえず渡した瞬間とても喜んでくれる彼。ガッツポーズしてわーいわーいしてる彼を、オーバーだなぁと思いつつも愛おしく思う。

「1日ぶりの食事がまさか君からの本命チョコなんて最高すぎるよ! 俺、 今日まで生きててよかったぁ」

……?
聞き捨てならない言葉に、思わず固まってしまう。

「えっと…品田さん…それ、義理チョコです」
「………え?」
「義理チョコです」

…………。

「え、ぎ、義理!!?」
「は、はい…」
「……」

すると先程のテンションはどこへやら。目に見えてしゅん、とした彼は、しゃがみこんで俯き、両腕の中に顔を隠す。つい彼を大型犬に例えてしまうこちらとしては、ぶんぶん振っていたしっぽの動きが止まり、耳が垂れ下がっているようにしか見えない。落ち込んで、るのかな。…え、落ち込んでる? それって…。

「…あの、品田さんって今、本命じゃなかったことに落ち込んでたりしますか?」
「……そりゃあもう、ものすごく」
「それって、 “本命チョコ” が欲しかったからですか? …それとも、“私の本命チョコ” が欲しかったからですか…?」

とくんとくんと大きくなってく鼓動の音を感じながら返事を待っていると、彼は顔を上げ、上目遣いでこちらを見つめる。

「…君からのチョコが欲しかったからに決まってるでしょ? 他の子からもらったら…まぁ、正直嬉しいとは思うけど。それは “男” としてであって、“俺” が本命のことで一喜一憂できるのは、君だけだよ」

射抜くようなまっすぐな瞳に、胸が高鳴る。他の人からもらった本命も嬉しい、という言葉が含まれているのが、本当に素直で正直で。でもそれは、彼が言ったことの真実味を物語っているから。

「…品田さん、」
「ん?」
「本当は、本命チョコ渡すつもりだったって言ったら…喜んでくれますか…?」

じわ、と顔に熱が集まっているのを感じながら、そう尋ねれば、

「…うん。喜びすぎて、思わず君を抱きしめちゃうかも」

悪戯っぽく笑う彼のせいで、さらに顔が熱くなってしまった。




backtop