サバイバーに集まってる皆に次々とチョコを渡していって、流れで彼にも「春日さんもどうぞ!」と笑いかける。事情を知ってる彼以外の者たちは『!?』って目丸くして、一番の反応をハラハラしながら見守っていたりする。
「…おう!ありがとな」
にっ、と笑う彼の顔はいつもとそう変わりなく。更に『!!?』となった周りの反応には、こちらと彼は気づかない。
数刻後、「…結局あげられなかったな」と本命チョコを手に一人たそがれていると
「…誰にあげられなかったんだ?」
と彼の声がするから驚く。
「悪ぃ、盗み聞きする気はなかったんだけどよ…」
「いえ、気にしないでください」
それからなにを言っていいのか分からなくて、必死に言葉を探していると、
「…それって、もしかして本命か?」
と彼がたずねる。
「…はい」
「……そう、か」
「…春日さん?」
言葉を受けて目を瞑ってしまった彼の顔を見つめる。すると次にはあの、にっとした笑みを浮かべて。
「名前ちゃんなら絶対ぇ大丈夫だ。俺が保証する。名前ちゃんみたいないい女、逃す男なんざいねぇよ。だから安心して渡してくればいい。万が一断られでもしたら、俺が代わりにもらってやるさ」
…なんてな? そうやって優しく励ましてくれる彼が眩しくて、やっぱり好きで、胸が詰まる。
「…本当に大丈夫だと思いますか?」
「おう」
「なら…代わりじゃなくて、本命として受け取ってくれませんか?」
「……、え?」
いくら疎い彼でも、さすがに気づいてしまったらしい。だから、もう後戻りはできない。
「これ…実は、春日さんに渡そうと思ってたんです」
「え、ほ、本当か!?」
じわじわと頬に集まってくる熱を感じながら、こくりと頷く。そしてハート型の箱を差し出すと、律儀に両手で受け取ってくれる彼。
「…やべぇ。俺、本命なんてもらうの初めてだ…こんな嬉しいもんなんだな」
目を輝かせる彼の姿に期待して、胸が跳ねる。そのまま「…春日さん、私、ずっと春日さんのこと、」と言いかけたところで、彼に「待った!」と遮られ。
「こうして名前ちゃんが勇気出してくれたんだ。その先は俺に言わせちゃくれねぇか?」
彼がそう言ったそのとき。ふと、視界にいつもの面々が隠れながらこちらを覗いているのが目に入って。彼もその存在に気づいたのか、ちらりと視線を横にずらすけれど、それも一瞬。彼はぐっとこちらを引き寄せると、耳元に口を寄せ。
「…俺もずっと好きだったぜ、名前ちゃん」
ワントーン低い声が、吐息とともに響き渡る。わずかに顔を離したときに見えた彼の表情はあのお得意の、にっとした笑み。けれどそれはいつも仲間に向けるそれではなく、 男のひとの顔をしていた。