彼に好意を抱きながらも義理チョコを渡したとき(澤村遥)





*バレンタインデーを共に過ごすお話


2人で友達やお世話になった人用にチョコ作りをする。なに作ろうかっていろいろ考えて、一緒に買い出し行ってついでに遊んで、前日はこうして協力しながらチョコ作りをして、さらには遥ちゃんの手作りチョコも食べられる……。バレンタインデー作った人は神様です。ありがとうございます。

基本的にはみんな同じものを作っているんだけど、こちらはこっそり遥ちゃん用の特別なチョコを用意している。チョコ作りが進んでいくにつれて、いつ渡そう、喜んでくれるかな、ってどきどきして。ついにラッピングまで終わると、ふぅ、と2人息をつき、笑い合う。

「「…あの!」」

遥ちゃんに声を掛けようとすると、見事に重なってしまい。

「あ、ごめんね!遥ちゃん先いいよ!」
「え、でも…。ううん、やっぱり先に言うね。ありがとう」

遥ちゃんはにっこりと微笑むと、紙袋の中からなにかを取り出し、それをこちらに向ける。

「あの…実は、名前さんには昨日別のものを作ったの。いつも仲良くしてくれる名前さんはやっぱり、特別だから…。受け取ってもらえる?」

全く予想していなかった展開に、本気で心臓が止まりそうになる。

「えっと…実は、私も遥ちゃんに別のものを用意してて…」
「えっ!」

遥ちゃんの大きな瞳が二、三度ぱちくりと瞬く。数秒の沈黙の後、ふっ、と笑いが込み上げてきて。お互いくすくすと笑い合いながら、特別なチョコを交換する。

「わ、遥ちゃんのチョコ美味しい!」
「ふふ、名前さんのもすごく美味しいよ」

甘い匂いが漂うダイニングで、遥ちゃんのチョコを食べるのが、心から幸せで。これ以上の幸せはないかも、と思っていると、遥ちゃんに「名前」 と声をかけられる。

「みんなには秘密、だね?」

口に人差し指をあて、首を傾げる遥ちゃん。

合掌。この子と一緒にいると幸せが常に更新されていくな…と少し泣いてしまった。





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